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記事の作成手順

以下に見るように、dkは執筆よりも裏方の調査のほうが多い。これはクオリティを維持するために削減できない工程である。
基本的には辞書を色々調べていって、アルバザードの歴史と文化を踏まえた上で命名をするという作業だ。
ここでは「樟脳」を例に取り、dkの記事作成手順を説明する。

09年10月、ユーザーから「樟脳」が欲しいと要望があり、対応することとなった。
まず、樟脳というのものを知らなかったのでブリタニカ国際大百科、広辞苑、ニッポニカ、ウィキペディアで調べた。
読みと語義については理解した。カンフル剤のカンフルのことだと分かる。楠を原料とした物質で、防虫剤に使うようだ。

なぜカンフルというのか調べる。ODEと英語語源辞典で調べると、マレー語のchalkに辿り着いた。
ジーニアス大英和でcamphorとchalkを調べるが、チョークにカンフルと結びつくような語義はなかった。ODEでも同様。
OEDで調べたところ、camphorはJava, Sumatra, Japanなどが原産とあり、1313年初出であった。やはりMalayのchalkからとある。

化学用語の成り立ちについて書かれた事典に当たり、マレー語でチョークを意味する土地の名から来ていることが分かった。
となると、アルカでチョークと関連付ける合理性はないことになる。アプリオリとしてはチョークと切り離した命名をするほうが適切といえよう。


次になぜ樟脳という字を書くのか調べた。新漢和大字典に当たった。
樟は楠のことだそうだ。楠は字のとおり、中国から見て南方の台湾などに生える木だそうだ。
アトラスでいえばヴァルマレアやヒュグノー原産ということになる。
この時点でアルバザードにはメティオから入ったことが想定される。

それにしてもなぜ樟脳というのか分からない。最初は大脳など、脳の一部かと思った。
日本国語大辞典第2版によると樟脳は1570年初出だが、言継卿記では「生脳」となっている。
1678?俳諧虎渓の橋で初めて「樟脳」として出る。どうも日本語の単語ではないようだ。

そこで大漢和辞典で樟脳を調べる。脳の旁がPCの変換候補に出てこない字になっていた。ここでは脳で通す。
どうも樟脳は漢文から来ているということが分かった。だが、なぜ脳なのかは分からない。
調べると脳には「しん、ずい、中心」という意味があるようだ。樟脳は楠の根、幹、枝の順に多く含まれているので、脳はこの意味かもしれない。

また、龍脳というものもあるようだ。
世界科学大事典と平凡社世界大百科事典で調べると、後者いわく龍脳は龍脳樹中の物質で、ボルネオールのことだという。
龍脳樹の樹幹内にできた空隙に純粋な蝋白色のかたまりとして存在することがあり、古くから中国で医薬品として使われてきたそうだ。
脳という字はこの木の中心やずいにある空隙から来ているのかもしれない。

ただ、確信がない。勘違いな気がしてならない。龍脳樹が先にあって龍脳という物質が抽出されるわけだから、上記では説明が付かないのではないか。
しかし、確信を持っていえるのは、樟脳に脳が使われているのは龍脳などほかの植物との兼ね合いで、樟脳だけが特殊というわけではないということだ。
つまり、brainとは関係がなく、アルカで造語する場合もzeloと切り離して考えてよいということだ。

さて、英語に戻る。英語語源辞典でカンフルの時期を調べると、OFとMLを経由してどんどん遡ってArabを通ってMalayのKapurに行っている。
アラブをメティオ、マレーをヴァルマレアと置換すると理解しやすい。
アトラスだとセルメルのころに入ってきたと考えられる。戦間期で貿易が盛んだったからだ。
MLの年代は600-1500で、OFは800-1550だ。アトラスではカコ末期からアレイユまでがおよそ2000年間なので、MLやOFの年代はセルメルに当たる。
ちょうどsmは社会が落ち着いて発展してきた時代なので、時期的にも一致する。

smに流入したとなると、メティオを経由したわけで、そのころのメティオ語はslme(中メティオ語)だ。
slmeはほかの時代と同じくアルハノンを使う。
ここで楠を「東の香木」という意味のte:tes zam:litと名付けた。読みはteslitだ。

そこでteslit.slmeという見出し語を立てる。
ただ、アルバザードが借入を行ったのがslmeだっただけで、メティオにはそれより前にteslitがあったはずである。
メティオではメルテナ辺りから楠という語が入ってきていたと考えられる。そこでteslit.slmeの語源欄にmtと書いておいた。
mtでできた語が少なくともslmeまで持続し、その時点でアルバザードへ流入したというわけである。

この時点で意味の変化が起きている。
アルバザードでは当時楠を指すxektという単語があった。なのでわざわざteslitを借入する必要はない。
そこでアルバザード人はteslit(楠)を原料とする樟脳にこの語を当てた。つまり、teslitを樟脳として受け入れた。
だからteslit.slmeとteslitの語義欄は異なっている。

なお、アルバザード人はルティア人と異なり、アルハノンを使わなかった。
そこで幻字の表記もslmeと異なる。slmeではte:tes zam:litと表記するが、アルバレンではkete liito/zamo(東の香木)と表記する。
秋刀魚と書いてサンマと読ませるがごとく、幻字の読みをそのまま使わない方法である。

商人たちが口語で受け入れてきた外来語なので、読みはteslitのままであった。keteliitozamoと言ったらメティオ商人に通じず、商売にならない。
一方、文字に関しては大概が自分側の帳簿なので、幻字表記でかまわない。
ただし、当時の商人は教育を受けているので、相手に渡す伝票にはアルハノンで書いたと考えられる。


その後rdではアルカができ、楠はxetonとなった。
レミールに入るレインのような人間は楠がxetonであり、昔はxektであり、slmeではteslitであったことをすべて把握している。
また、それぞれの表記も把握している。(アルナ大の学生は凄いなぁ……)

――と、ここまで調べて考察したら記事を書く。執筆より調査のほうがかかると述べたのはこういう理由だ。

teslit.slme
[caf] tEslit
[hacma] te:tes zam:lit
[asa][tuk] xekton
<a te:tes/zam:lit (zom liito kaen axti) mt

teslit
[caf] tEslit
[hacma] kete liito/zamo
[asa][mail] mait len ruuf el, stas veliz i sab, set beeb, wen.
> teslit.slme sm
[antis]
L10A16Z. el taf sen salia enim/zaim tuul emo ar ersiptsisp al adem e xeton. see tu et liito/gyu.
ruxilo et axtiinsaal ovaen valmalea,hyugno.
metian serat tu im mt. see tu luna arbazard im sm var ginan xel pita.

●語義欄の訳
[名詞][化学]興奮剤、防虫剤、防臭剤などに使う化学物質。

●百科欄の訳
[文化]
C10H16O。無色透明の結晶で、クスノキの材片を水蒸気蒸留することで得られる。芳香があり、苦味がある。
原産地は東亜で、ヴァルマレア、ヒュグノーなど。
メルテナでメティオ人に伝わり、セルメルでは商人を通じて薬品としてアルバザードに伝わった。

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以前からdkは目に見えない裏方の調査が多いといってきたが、今回はその裏方について述べた。
地球の科学と歴史を調べた上、それがアトラスでどのような科学と歴史を持っているのかを考えて造語しなければならない。

従って非常に時間がかかる。アプリオリの異世界に存在するアプリオリの人工言語を作るのは難しいと日々思う。
願わくば、dkを読む際には、一語一語適当に命名したのではなく、こうした目に見えない裏方作業があるのだということを思い出してほしい。

今回は化学だったが、物理なら物理を調べる。医療なら医療、天文なら天文、地理なら地理。
料理、歴史、スポーツ、電算。なんでも自分でこなせなければならない。
私の場合、幸いなことにこの仕事が楽しい。

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