オノマトペ
オノマトペは擬音語、擬態語、擬声語、擬情語に大別される。
このうち擬声語は擬音語に、擬情語は擬態語に含められることが多い。
擬音語を欠く言語は存在しないが、擬態語を欠く言語は存在する。
例えばフランス語にはジグザグなど一部を除いて擬態語が原則存在しない。
ここでよくある誤解が「フランス語は明晰だから」や「日本語は感情表現が豊かだから」といったものである。
こういうものは民間語源と同じで信用できない。平然と出版物に載っていることもあるので注意したい。
明晰だとか感情豊かだという問題ではなく、同じ感情に対してどうアプローチするかの違いにすぎない。
フランス語は「イライラする」を表す場合、s'agacerのように擬態語以外(ここでは動詞)を使って表す。
逆に日本語も擬態語を使わず「苛立つ」のように表現することができる。
ただ、まったく両者の間に差がないかというと、そうとも思わない。
同じ人間だから「イライラ」という感情はあるが、それを「飛ぶ」や「熱い」などの普通の言葉と同列に捉えて客観的に表現したがるのがフランス語だとしたら、擬態語などの音声に委ねて感覚的に表現したがるのが日本語といえる。
この「したがる」という部分、つまりアプローチの仕方が両者の差異である。
さて、人工言語的に見ると擬態語を作らないほうが作業が楽に見える。
しかしフランス語と同じく、結局その分ほかの動詞なり形容詞なりを作ることになるので楽はできない。
ちなみに日本語のように「イライラ」も「苛立つ」も両方作ると手間がかかる。が、そういうアプローチにしたいのであればやる価値はあると思う。
人工言語に擬態語を付与するか否かは「楽かどうか」という観点ではなく、上で述べた感情表現をフランス式と日本式のどちらにするかという観点で考えるべきことである。
この辺りの事情はアルカの認知言語学的考察に詳しい。
・オノマトペの分類
アルカのオノマトペは擬音語と擬態語に分かれる。このうちフランス語同様、擬態語は少ない。
擬態語に相当する表現を欠くという意味でなく、補完するための表現が存在する。そのため、人工言語造りにおいて労力の削減は期待できない。
擬音語には帰納音と演繹音の2種類がある。これはアルカの術語である。
帰納音はそれひとつで完結しているものである。
猫の鳴き声のnyaや犬のwonwonなどの擬声のほか、鼻をすするajなどの擬音がある。これらは勝手にnyoやwanwanやejに変えることができない。
動物の声や物音を聞いてその音を文字に帰納させたものなので、帰納音という。
世の中にまったく同じ音はないが、何度も動物の声を聞いているとある音に帰納することができる。それゆえnyaなどを帰納音という。
一方、演繹音とは(C)CV(C)からなり、規則的にCやVを変えることによって印象を変化させる擬音語である。
例えばpxatは水が「ぱしゃっ」と撥ねる音などに用いるが、それを有声化したbjadは泥が撥ねる音に用いる。
さらに間の母音を変化させることで音の明度と重度を変えることができる。pxitは小さな飛沫が「ぴっ」と撥ねる音である。
同様にbjidは水たまりの泥などが「べっ」と撥ねて靴や服などに飛んでいくときなどに使う音である。
演繹音については後述する。
・分類表
オノマトペ
擬音語
帰納音
擬音
擬声
演繹音
擬態語
・幻日におけるタグ
擬音、擬声、演繹音、擬態語の4種をタグとする。
・演繹音
演繹音のおかげで、アルカは音に関して非常に細やかな表現を可能にしている。
演繹音は幻日では[演繹音]のタグで示される。
しかし上述のpxat, bjad, pxitなどをすべて見出し語に挙げると、無尽蔵に単語が増えてしまう。
水嵩を増してまで辞書の収録語数が多いことを誇示しても詮なきことであり、むしろ管理の煩雑さとユーザビリティを考慮した見出し語システムを整えるべきと考える。
そこで見出し語にはpxtのみを立てることとする。
清音が無標であるから清音を表記し、母音は無標がないので省略する。
[演繹音]のタグがあるので、ユーザーはすぐにそれが頭字語などでないことが理解できる。
そしてこれを元にユーザーは自由に音質を変えることができる。では音質はどのように変化させることができるだろうか。
1:子音の清濁
清音は弱い、綺麗、澄んだ、軽い、涼しいなどの音質を与える。
濁音は強い、汚い、濁った、重い、熱いなどの音質を与える。
pxat ぱしゃ
bjad ばしゃ、べちゃ
中国語などでは清音はないが、事実上無声音になっている有気音が無気音より勢いがあるため、pangとbangだとpangのほうが強いと考える。
これは大学時代に筆者が実際に複数の中国人に尋ねた際に得た回答である。
そのため、アルカや日本語とは感覚が逆である。
2:母音の音質
a:明度
明度はi>e>a>o>uの順序である。
iのほうがuより「明るい、前に出ている、活発、賑やか、幼稚」などの印象を持つ。
b:重度
重度はo>u>a>e>iの順序である。明度の反対ではないことに注意。
oのほうがiより「重い、大きい、深い、不活性、大人、大人しい」などの印象を持つ。
----
よって、同じ水の撥ねる音でも、pxitは最も軽く弱く明るく、雫の撥ねる音を表す。
一方、bjodは粘度の高い重い油や泥などが撥ねる音を表す。
3:母音の長短
短母音が無標。
長母音はその音が長く持続していることを示す。
pxatはぱしゃっと少しだけ水が撥ねる音だが、pxaatは例えばピペットでぴゅっとある程度の量を吹き出すときの音。
4:繰り返し
演繹音を繰り返すことで、反復を示すことができる。
pxatpxatで「ぱしゃぱしゃ」、pxaatpxaatで「ぴゅーぴゅー」。
・子音の構成
音節頭の子音は1ないし2音からなる。
これらはその演繹音の全体的な音の種類を決定する。
例えばpx-は「何らか水が動くとき」という音の種類を決定している。
一方、音節末の子音は1つからなる。
これはその演繹音の部分的な音の種類を決定する。
同じpx-でも、-nの場合は「柔らかく撥ねたり転がったりする音」であり、-tは「撥ねたり止まったりする音」である。
よってpxatとpxanでは音の種類が異なる。
px-を共有しているので全体的な音の種類は同じだが、-tか-nかという違いで部分的に音の種類が異なる。
そういった子音の構成が決まった上で、上記の子音の清濁による音質変化や、母音や繰り返しなどによる音質変化があるため、実際に演繹される演繹音の数は極めて多い。
これをもってアルカは音に対して細やかな言語と評している。
・末子音
末子音の種類と音質例は以下の通り。
元々有声音なものはこれ以上有声音になれないし、無声音にもなれない。
t:撥ねる、止まる
k:ぶつかる、転がる、回転する、固い
x:伸びる、吹く、続く、擦れる、鋭い、冷たい
s:伸びる、吹く、続く、擦れる、鋭くない、涼しい
n:撥ねる、転がる、回転する、柔らかい
f:吹く、続く、擦れる、弱い
m:まろやか、転がる、微動する、回転する
p:弾ける、止まる、破裂する、静止する
h:擦れる、鈍い
c:響く、連続する、打ち付ける、攻撃的
r:消える、去る、行く、流れる
l:現れる、来る、留まる、流れる
・演繹音の用途
演繹音の用途は小説や日常会話だけでなく、漫画に出てくる多種多様な擬音語を示すのにも役立つ。
・演繹音の文法
演繹音は基本的に名詞なので、文中ではfo格などを取る。
tef lunak kaam fo pxit(雫が頬にぴしゃっと当たった)
|