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造語前の検討

単語の作り方というと、例えば「本はleiで棚はkibだから本棚はleikibで、これは複合だ」というようなものを想像するかもしれない。
それも単語の作り方の一過程ではあるが、どちらかというと造語の仕方である。

造語をする前に、まずその概念がその言語に存在するかどうかから検討する必要がある。
これは初手にも関わらず、非常に手間のかかる場合がある。

注意すべきは、その世界に存在するかではなくその言語に存在するかという点である。
日本語を例にとると、魔法のように実在しないものでも想像することができるので、世界に存在しなくても言語には存在することがある。

逆に世界には存在しても言語に存在しない場合もある。
千年前の日本に塩化ナトリウムは存在しても、その言葉は存在しない。
私たちは塩化ナトリウムを知っている。しかしその言語には存在しないかもしれない。そこを逐一検討する必要がある。ここが難しい。

なぜ難しいか?
自分が知っているものはつい存在すると思い込んでしまうからである。
塩化ナトリウムの場合は科学力から簡単に判断できるかもしれない。だが問題は私たちの盲点である。
科学力が十分に発達していても、絶対にそこに存在しえないものがある。
こういうものはついつい存在すると思い込みやすい。

皆さんもサイコロ型のカレンダーを見たことがあると思う。デートスポット等の土産物屋に置いてあるアレである。
私は目で見たものをアルカで考える癖があるので、あれは何ていうのだろうと考えたことがある。
アルカにしたらzanlpapxというのが適切だろう。ケータイがある世界にあんなアナログなものがないわけがないと思った。

しかしそこでふと思った。これがアルカに存在するというのは正しい前提だろうかと。
カレンダーには0から9までの10種の数が必要だが、なぜ6面しかないサイコロで示せるのだろうと気になったからである。
メル暦では数字で日付を示すこともできる。月は14までで、日は28まで。
これを4つのサイコロで本当に示せるか考えた。

月の十の位が1のときは一の位は0~4までしか取れないなどという組み合わせがあるから、下図のように2*3=6パターンが得られる。
ちなみにメル暦だと14月は2日で終わるが、28日までの計算でうまくできれば2日までの場合でもうまくいくので、パターン数を減らすことを優先した。


表から、1はすべてのサイコロが持っていなければならないとわかる。同様に2が3個で、あとは2個ずつ。計23個なので、サイコロの24面で足りる。
しかしサイコロはひとつにつきひとつの数しか同時に出せないので、下記のような配置だとうまくやっても七夕くらいでエラーが出る。

七夕のようなゾロ目の日付を確保するには、すべてのサイコロが0を持つ必要がある。しかし11/11があるので1も外せない。
すると8面が埋まり、残り16面となる。2/2~9/9まで示すために8種の数字が2個ずつ必要なので、16面すべてが埋まる。
しかしそれでは2が2つしかないので、2/22でエラーが出る。よってサイコロで日付を示すのは不可能といえる。

グレゴリオは31まであるので上のパターンとは異なるが、いずれにせよこの配置では七夕が出ないのでアウト。
予想どおり、サイコロカレンダーは日付を示せなかった。

しかし、現実にサイコロカレンダーは売られている。一体どういう仕組みだろうと悩んだ。
色々四苦八苦した結果、下記の配列だとうまくいくことがわかった。
え、9がない?そこは6をひっくり返すのだ。

0000
1111
2222
3636
4747
5858

こうして無事サイコロカレンダーはzanlpapxで......ってちょっと待った。
幻字だと6と9はひっくり返せないではないか。ひっくり返せる数字がそもそもない。
そう、最初の懸念どおりzanlpapxは数学的あるいは幾何学的にアルカに存在しえない単語だったのだ。
強いて活用してもユマナタグをつけざるをえない。

危ないところだった。
確かにアルバザード人も魔法を空想するかもしれない。ケータイを作る科学力も持っている。
しかし数学的に考えて、サイコロカレンダーを発想したというのは明らかに嘘臭い。それはアルバザード人ではなく作者が考えたことだ。

これが存在の盲点である。
ゆえに、単語を作るときに造語以前の入念な検討が必要であるといえる。

とはいえ、あまり数学史や科学史に忠実に作ると、地球とほぼ同じ世界になってしまう恐れがある。
ある程度ファンタジー要素を残しつつ別の世界を作るには、地球の史観を超越する必要もあるだろう。

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