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移動動詞
移動動詞には comeのような直示的なもの、 arrive, reachのような有界的な有方向移動動詞、 ascend,descend,fallのような非有界的な有方向移動動詞がある。 また、移動の様態を伴う移動様態動詞があり、 runのような動詞と、 rollのような動詞に分かれる。 (影山 et al.(2001)pp46-48) アルカでこれらのことを見てみよう。 1:直示 いわゆるダイクシスである。kor, lunaなど。 yul:着点 it:起点 var:中間経路 2:有界的な有方向移動動詞 luko, vatlなど。 yul:着点 it:起点 var:中間経路 3:非有界的な有方向移動動詞 ascendや「上がる」に対応する語はアルカに存在しない。 自動詞がないので、「上げる」しかない。「上がる」は語彙でなく統語的な操作で表現する。 an nek gek(私はボールを上げる) gek ik nek(ボールが上がった) 非有界的な有方向移動動詞を見るとどれも自動詞である。 これらを他動詞に変えると「上げる」「落とす」「進む」などになる。 そしてこれらは移動動詞ではない。 従ってアルカには非有界的な有方向移動動詞は統語的手段のみによって表される。 gek ik nek a kib var jina it ako(ボールは地面から宙を通って棚へ上がった) 4:run動詞 累積動詞、不定動詞などと呼ばれる類の動詞。 lef, luk, leftなど。 yul:中間経路 it:起点 al:着点 格組の差に注目したい。yulは着点ではない。 ゴールがないので、運動ではあるが、移動とは限らない。 この種の動詞がalを持つと定動詞の移動動詞になり、alを持たないと不定動詞のいわば運動動詞になる。 従ってrun動詞は純粋な移動動詞ではない。 純粋な移動動詞ではないことが次の表現に影響を与える。 (1) I go to the station = an ke lopn (2) I run to the station = an lef a lopn (3) I run out of the room = an rik it ez lefel (1)は移動動詞ke。 (2)は定動詞としてのlef。 (3)は不定動詞としてのlef。 (3)は部屋から出た後のゴールなどないので、非有界であり、不定動詞である。 この場合、lefは「運動動詞」であり、移動動詞でない。 従って移動様態動詞という名前の「様態」の部分が強調され、動詞から外れて副詞となる。様態を示すためだ。 5:roll動詞 roll,floatにあたる動詞だが、アルカにはない。 run動詞は生物による意図的な動作を示すが、roll動詞は無生物に特徴的な移動の様態を表す。影山 et al.(2001)p.48 7相体系のアルカでは、左5相の行為動詞と、右5相の状態動詞に分かれる。 左5相は行為動詞なので「生物による意図的な動作」は示すが、「無生物に特徴的な移動の様態」は示しにくい。 従って、「転がす」と「転がっている」なら、「転がす」が左5相になり、「転がっている」が右5相になる。 そして「転がる」は左5相である他動詞を統語的手段によって自動詞に変えて表現する。 pix:転がす pixes:転がっている et pix:転がる さて、語彙としてはpix(転がす)が存在するだけで、転がすは移動動詞ではない。 従ってアルカにはroll動詞はない。 (4) The rock rolled = tad at pix (5) The rock rolled down the hill = tad ket waka pixel (4)と(5)でpixの品詞が変わっていることに注目。 (5)では完全に様態化している。 (4)は運動動詞として捉え、移動については考えていない。だからat pixが使える。 しかし(5)は丘を下るのくだりがあるため、非有界ながら移動の要素が見える。そこでpixは副詞になる。 ・まとめ アルカの移動動詞の格組はわずか2種。 lef, luk, leftなど。 yul:中間経路 it:起点 al:着点 と lef, luk, leftなど。 yul:中間経路 it:起点 al:着点 である。 しかもこのうち純粋に移動動詞なのは前者だけである。 自動詞を統語的操作で表現するため、roll動詞などの自動詞が語彙として存在しない。 他動詞にすると「転がす」になり、もはや移動動詞ではなくなる。 そのため、アルカは移動動詞が少ない。 例文から分かるとおり、移動が表現できないという意味ではない。 移動動詞という形で移動を表現することが少ないという意味である。 影山 et al.(2001)『日英対照 動詞の意味と構文』大修館書店