ランジュ – 2014年2月4日

2014年2月4日

リーザに指示され、フェリシア大まで車を流した。夜の大学に来て何をしようというのか。
リーザはほたる池へ向かう。
欄干に手をかけ、暗い池を見る。かつて自分が拾われたこの朱塗りの橋の上で。

「……閉じ込められている間、どんな気持ちだった?」
「……自分の業績は面白おかしくニュースでネタにされ、世間からキチガイ呼ばわりされ、彼女に対する悔しさと苦悩をまったく理解されず、小さな世界の偉人から犯罪者へ。ただただ辛かったです。なぜ出れたんでしょう。使命があるとか言ってませんでしたっけ」
「そうよ。だから私は10歳だったあなたを拾って育てた。あなたは10歳の姿で転生した。30歳でユマナからセレスが来てあなたに入った。転生の完了ね」
「転生って……」
「あなたの正体はオーディンの英雄セレン=アルバザードの転生した姿」
「……というか、ランティスの転生って本当だったんですか……。転生はディミニオンを倒すためと今では言われているけど、そうだとしたらおかしい。だって僕には力がない」
「だからここに来たのよ。力を覚醒させるためにね」

リーザが水面を見ると光が起こり、水の上に男が現れた。
「久しぶり、死神ヴァンガルディ」
リーザが気安く呼ぶと男は空間から鎌を出して向けてくる。
「鼎を交わす意志はあるか」
契約を要求する死神。
「……力をくれるというのか?」
「ミロク=ユティアや神や悪魔やアシェットを超える力を授けよう」
「代償は?」
「苦痛。様々な病に苦しむ。死にたくても死ねない。文字通り生き地獄だ」
ぞくっとした。痛みを知っているものほどこの代償がどんなに大きいか分かる。
だがカルカにいたら何もなすことなく同じ苦痛を得ていたはずだ。

「その力は俺の好きに使っていいのか?」
「つまり?」
「この世界をディミニオンから守るだけでなく、この世界を革命するために使ってもいいのかということだ」
「変えたいのか、このアルバザード国を、あるいは惑星アトラスを」
「変えたいね、この世界カルディアを」
死神は「好きにするがいい」と答えた。
どのみち無意味に苦痛を味わうだけの人生だった。なら……。

セレンは死神の目を見た。「分かった。鼎を交わそう、ヴァンガルディ」
すると死神は鎌を薙ぎ、セレンは光りに包まれた。
直後に体全体や内臓が苦痛に苛まれ、それと同時に体中に言い知れない力を感じた。これが神々を凌駕する力か。

死神が去るとリーザが寄ってくる。
「大丈夫?」
「――ではないですが。あそこで無駄に生きるよりは何倍もマシですね。人生の意義があるのは何にせよ幸せなことです。そしてそれを叶える力があるというのも」
「これから忙しくなりそうね」
「先生が何者なのかも気になるところですが」
リーザはくすりと笑うと「風花院に戻りましょう」と言った。

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