ランジュ – 2014年3月8日 1/n

2014年3月8日

風花院の一同は深夜0時にセレンに居間に呼び出されると、ひとりひとり手をかざされた。今のは何なのかと問うと、メジュテルを張ったという。
セレンはメルを連れ、車で北区へ向かう。孤児たちにはテレビを付けておくように言っておいた。
「どこ行くの、このドライブ」
車中でメルが問う。早い出発なので遠出の旅行と思っているようだ。

着いた先はカシュアルノ。セレンは車を降りる。
「俺が出れた理由、聞いたか?」
「ううん、先生たちも教えてくれないし」
「俺、オーディンのセレンが転生した姿なんだってさ」
眉をひそめるメルに、セレンは池での出来事を話した。
「それで、お兄ちゃんはアトラスを変えようと?」
「あぁ」
「つまり、ミロク革命……というか、セレン革命的な?」
「そうだ。そのため、力のないお前たちにメジュテルをかけておいた」

セレンが入口に近づくと当然止められたが、彼は制止を無視して入っていった。力づくで止めようとしてくるが、軽いアヴォンで吹き飛ばす。
建物の中に入った頃にはナインが駆けつけてきていた。
「マスコミも集まってきたようだな」
長官室の窓から外を見るセレン。
「速報が流れてるね」とレイゼンを出すメル。
すぐさまナインが突入し、戦闘になったが、紙の兵士も同然だった。

カシュアルノを攻略したセレンはマスコミにわざと見せつけるように車でなく飛行でヴァーンアルノに行った。
ヴァーンは総力を上げてきたが、これもまた彼の魔力には到底及ばなかった。

ヴァーンアルノも攻略したセレンは長官室にマスコミを引き入れ、夜8時に会見を開いた。
目的を問われたセレンはセレン革命を宣言し、惑星アトラスにおける人々のヤグの統一を始めとした理想郷を打ち立てると約束した。
メルがユミクルを見せてくる。
「あの女の件の事が出てる。お兄ちゃんがヴェナカルカを出ていたことは世間は知らなかったから驚いてるみたいね」
「おぉ、いつもの荒らしも出てるな。現代魔法学の連中も驚いてるようだ」

セレンはジェリオン宮へ向かう。
「革命の下地を築くため、アルバ王家と副王は廃止しようと思う」
ジェリオンの衛兵はもはや戦闘を仕掛けてこなかった。
王の間へ行くと、そこには意外な人物がいた。

「予想通りの時間ね、セレン君」
「先生……!?姉さんも……。どうして2人がここに?」
くすくす笑うリーザ。
「まだ気付かないの?私たちの正体」
「正体って……」
「本当にただの孤児院の院長だと思ってたのね。まぁ子供の頃からそう信じこませてきたから無理もないか」
「まさか……」メルが青い顔になる。「ルティアの姫の名が確か……」
「いや、でもリーザなんて名前どこにでも」
「それがそのまさかなんだな」
「ということはミーファ先生は……」
「うん、このアルバザードの副王アルテナの娘、ミーファよ」
「……本当なんですか?」
「じゃなきゃセレン君を出せないし、ここにもいられないでしょ。で、セレン君の目的は王家の廃止?」
「そのつもりだったんですが……」
「相手が私たちじゃ手を出せない?」
「まぁ……敵と思ってた体制が味方だったわけですし」
「そしたらどうする?革命は諦める?」
「いえ」セレンはきっぱり断った。「先生たちが王家や副王ならわざわざ潰す必要はありません。むしろ支えてください。自分は総統を名乗ります」

セレンは2度目の記者会見を開き、王室を残すことを宣言し、ユティア朝の終わりを告げ、総統として革命することを述べた。
記者からエスタの件のセレン=アルバザードではないかと聞かれ、肯った。
30年のディレタンがなぜ突如現れ、力を持って革命を引き起こそうとしているのか。ネットもリアルも騒然としている。
ディレタンの作る理想郷などディストピアにすぎないとの論調が飛び交う。
セレンの会見が終わるとミーファがアルテナとともに出てきて、ユティア朝の終わりを告げた。
続いてリーザが会見し、ルティアはアルバザードに降ることを宣言。

風花院に一旦戻ったセレンらは今後のことを話し合った。
セレンは部屋から一冊のノートを持ってきた。
「何これ?」
「セレンの書。事件後ずっと一人で書いてた。俺に力があれば世の中こうしてやるのにって思って書いておいたもので革命の案が記してある」

「お兄ちゃんは世界をどう変えたいわけ?」
「ヤグという主観的客観単位を制定しようと思う。苦痛を数値化したもので、健康な人ほど低い。この世はお金でも健康でも、持つものが得をして、楽をするんだよ。苦しんでいるほど持たざるもので損をする。不公平だよな。ただでさえ苦しいのに、そんな人が余計辛い思いをする。俺はさ、弱者に優しい社会を作りたいんだよ。持つものも持たざるものも同じ程度のヤグを。経済格差も是正したい。一握りの金持ちがこの世の富を独り占めして第三国の人間が苦しんでいる。そんなの許されるはずがない。国という境界を取り除き、アトラス単位でひとつの共同体としたい。石油資源など資源は中央政府が一括管理し、必要に応じた量を各地域――今でいう国――に分配する」

「それと、汚いこと、卑怯なこと、立場の強い人間が弱い人間を虐げること、動植物を虐待することもできるだけ阻止したい」
「どうやって?」
「lenasluxia」
「レナスルシア?それってお兄ちゃんが好きなバンドの名前でしょ。確かオーディンでセレンが作った2つ目のバンドの名前と同じにしたのよね。『かわいそうなルシア』は娘のルシアが苛められて塞ぎこんでいたのを見たセレンが可哀想になって歌を歌ってあげたのが始まりだったとか何とか。でランジュで同名のロックバンドができたのよね。『痛みの塔』とか名曲揃いで」
「”y”も良かったな。xionとxyonをかけてさ。あれは最高の歌詞だ」

「で、レナスルシアがどうしたの?」
「ルシアとユルトはさ、汚いことや弱者を虐げる世の中が許せなかったんだ。弱者が傷つかない世の中を俺は作りたいんだ。子供のために」
「オーディンの子供んために?」
「いや……もしかしたらユマナの」
「ユマナ?」
「……にも子供がいたんじゃないのかな。俺、向こうから来たらしいし、記憶が混濁してるのかも」

「具体的にはどうするの?」
「まずユカスカ、ユッカ、カルカから全て人を出す。旧体制での決定は一度白紙に戻す。カルカは廃止。ユカスカ、ユッカの待遇は外と同様にする。人権尊重が全くされないからな」
「カルカがないって、ディレタンはどうなるの?」
「有罪なら全て判決日に即座に安楽死させる」
「微罪でも?」
「ああ。今は犯罪ではないイジメなども取り締まる。立場の弱い人間や動植物を虐げるような行為も取り締まる」
「厳しすぎない?」
「と思うよ。でも人を食い物にする遺伝子が淘汰されていくうちに弱者を虐げない遺伝子だけが生き残り、いつか人類を精神的に遺伝子浄化できるようになるんだろうな。人がより高次の存在になれる気がする」
「それをディストピアと呼ぶ人は良いのでは?」
「かわいそうなルシアを虐げるような遺伝子にとってディストピアであろうと一向に構わない」

「冤罪どうするのよ。第一どう取り締まるの?」
「首輪の前後とヘアバンドにカメラを付け、全員に装着させる。1分1Mで現行の4G回線でリアルタイムに送信。電波塔を増やす必要があるが、電波資源は間に合う。アンセのGPSなどと合わせて防犯に使う。HDD資源も足りる」
「監視社会か。トイレやセックスまで当局が調べようとしたら筒抜けね。国家機密も電波の傍受で筒抜け。てか男がヘアバンドって……」

「人に見られてないからって悪いことする奴が多すぎるんだよな。カルカンだって人権無視で、病気を診せずに死なせても対応に問題はなかったとか言って病死で片付けるし、こっちが文句言えないのをいいことに虐げてくるし。この監視システム、レナスルシアがあればあんなことは起こらないのにって。悪を排除するためならプライバシーがどうのは目をつぶっても構わない」

「それはお兄ちゃんの理想郷?」
「いや、子供のためだな。心が綺麗で脆い彼女たちのための優しい世界。そこにふさわしくない人間はいらない。けど苦しめるのも悪だから速やかにウランセさせるわけだ」

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