『塾帰り、猫を抱いた』 2003/06/19  水曜だった。塾に行ったら1時間伸びて、9時あがりになった。後ろの席に村上さんがいて、ちょこちょこと話をしていた  帰りがかぶったので一緒に帰った。雨だったので向こうは歩きだったが、俺はチャリだった。で、チャリを歩かせながら帰った  途中、質屋というか中古屋みたいな店の横にある古いアパートのところで野良猫を見かけた。知らない野良猫だ。ぴょんと洗濯機の上に飛び乗ったのを見て彼女が驚いていた 「すごいジャンプ力」 「うん、ウチの猫も結構跳びますよ」といいつつチャリを止める 「なにするんですか?」 「ん、抱こうかなと」と言いつつ近寄る。ゆっくりと目線を合わせるも目自体は合わせずに。はじめ指先を近付けると向こうが鼻を付けてきた。喉を撫でて頭を撫でて、ゆっくり可愛がってから近寄って抱いた。コリンより軽いので驚いた 「撫でます?」といったら彼女が近寄ってきたが、猫は逃げ出してしまった 「あぁ、ごめんね、ねこちゃん」と彼女が言っていたが、飼っていないから仕方がない  驚くほどあっさり懐いてきたのでコリンのおかげだなと感謝した  いつもの交差点で止まって話をしているうちに、なんだか随分話し込んでしまった。色々話した。女子大なのでレズが多いと聞くけど、まさかねぇみたいな話を聞いた。俺も高校のとき2度男にコクられた話を暴露したら、「凄い凄い」といって笑ってた。今だからこそ笑い話  結構下ネタが混ざるのでどちらかというとメルタイプかなと思った。妙にそれ系の話題が続くから何とかそらそうと思ってそらした。映画が好きというので映画トークになったが、俺はあまり知識がなかった。「何かお勧めあったら教えてくださいよ」というようなことを話していた  話していたら向こうがふいにケータイを出してきて、「湿気が多いからケータイ大丈夫かなって思って。あ、ベトベトしてます…」といっていた。あ、今ならケータイ番号聞けるかもと思って「じゃあ、良い映画情報とか教えてくださいよ。俺、塾講の友達いないからまだ誰も番号も知らないんですよね。良かったら教えてくださいよ」といったら、「はい」という。だが、俺はケータイを持ってきていなかったということを思い出した 「あ、そういやケータイ忘れたんだっけ。う〜ん」 「…」 「どうしよっかなぁ、取ってこようかな」といったが心中「いいですよ、今度で」といわれると思っていた。が、丁寧にも「じゃあここで待ってますね」というのでちょっと感動した。気立てが良いなー 「いや、こんな時間に1人で待たせられないっすよ」 「大丈夫です。ここは変な人でないから。ピザーラの近くは出るかもしれないけど」 「うーん。じゃあ、家すぐそこだし…あ、でも却って迷惑か…」 「…」 「じゃ、歩きます?すこし」 「あ、はい。行きます」  という流れでゆっくり家まで歩いていった。家に着いて庭で待っててもらった。中に入ってケータイとコリンを持って外に出た。そしたらその瞬間コリンが大暴れ。胸と顎を引っかかれまくった。村上さんはまた「あぁ、ごめんね、ねこちゃん」と言っていた  コリンを回収して、ケータイを聞いた。あんまりやらないから慣れてなくて、すぐには登録できないので「送りますよ」といったら「いいですよ。だってここ家じゃないですか」というので、「あぁ、いや、ジュース買いに行こうかなって思って」と咄嗟に言った。で、ケータイを入れながら歩いていった  交差点に戻って、そこの自販機でコーヒーを買った。そしたら「でも、ジュースならもっと家の近くで買えたんじゃないですか?」という 「いや、まぁ…」 「あっ、やっぱり私を送ろうと思って…。やだ、私ったら全然気付かなくて、今更…」 「まぁまぁ、やっぱ1人で帰すわけには行かないっすから」といって笑ってごまかした 「村上さんは何飲みます?」といったら「そんな、いいです」という。「だって何だか長々歩かせちゃったから。気を使わないでもらってやってくださいよ」といったら「じゃあ…えーと、紅茶…」といって選んだ。選んだのはトワイニングが最近出した缶レモンティー。中々お目が高い  そのまま何となく飲みながら話していた。俺が飲み終わったら「あ、すみません、私飲むの遅くて」といっていた。確かに話かけると飲もうとしているのを止めてこちらを見てくるので、それで時間がかかるのかなと思った。仕草が丁寧で良い  結構色々話したな。弟と妹がいて、妹は離れて暮らしていること。妹は頭が良いこと。変なことも言ってしまった。「はじめの飲み会で見たとき、村上さんの髪が印象的だったんですよ。ふわふわで良いなって思って。あれはぶっちゃけかなり来ましたねー」といったら「そうですか?女の子からの評価は厳しいけど」という。「男的にはかなり来ますよ。凄い武器になりますって」といったら笑ってた。あと、「村上って苗字がね、俺的にはかなりかっこいいんですよ」というようなことも話した。うーん、なんかこれまでに思ってたことベラベラ喋ってしまった感じだ。いわないでおくつもりだったのにな  向こうは「ピザーラの人に誰も会わないのは奇跡的。でも、お父さんとか妹が犬の散歩にきそう。会ったらやだな」といっていた。後者は確かに…  どうも時給の問題でピザーラは夏にでも止めようかというようなことを話していた  あと、メール登録が遅いので「本当に慣れてないんですね。女の子とメールとかしないんですか?」といわれた 「うーん、することはするけど、学校の連絡網的なことが多いかなぁ」 「女の子は多いんですか?」 「それが多いんですよ。男5人で女ン十人の世界だから」 「じゃあモテモテじゃないですか」 「どうだろ…あれだけ多いと向こうもあんまこっちを気にしないんで。女子校みたいなもんですよ」  また、家庭教師をやってて、女の子も見たという話をしていたら「中学生にもてそうですよねー」といわれた 「そんなことないですよ。その娘とは仲良くしてましたけど、そういう感じじゃないかな」 「あー」 「村上さんこそ、もてるんじゃないですか。生徒とか結構」と聞いたら「去年中3でいました。阿部先生に狙われてるよって教えられてびっくりしました」という 「どんな子だったんです?」 「なんかダメな野球少年みたいな感じで…。スポーツ刈りでいかつい感じ。同級生だったらきっと怖かったと思う」 「うーん、そりゃ見てみたかったなぁ」  で、「そういえば授業を後ろで聞いてて思ったんですけど、生徒って結構こっちの態度で良い授業とか嫌な授業とか思ってますよね。内容はどうあれ、落ち着かない声は嫌だとか。その点、村上さんは声が落ち着いてて良いですよね」 「え、そんなことないですよ。あ、でもピザーラの電話受付の影響かも。営業ボイスで授業するから。私声が低くなるほうなんですよ」 「なるほど、だから落ち着いた感じがするんだ。俺、自分の声嫌いだから」 「え、でも歌うまいし歌声綺麗じゃないですか」 「あぁ…いや、地声がちょっと。だから先生が羨ましいですね」 「そっかぁ」  因みに彼女は俺の第一印象は飲み会の後のカラオケだったそうだ 「飲み会の後のカラオケにも来てましたよね。それで歌うまくて驚いたんですよ。歌うまい人なんだなぁって」 「そっか、あの時はあんまり話しませんでしたね」  ところで、向こうが俺の名を登録するときに、「名前の字は」というので「名前はセレンです」といったら「え?セレンですか。あの字で?」という 「シモンっていうのは親父がキリスト教だったから付けた洗練名みたいなもんなんで」 「え、じゃあキリスト教徒なんですか?」 「いや、親父はね。でも俺はそういうのと違うから別の名前になってるんです」 「自分で付けたんですか?」 「えっと、人から呼ばれて。だってそのとき俺まだ10少しぐらいだったし」 「へぇー、なんだかカッコいいですね」 「だからシモンって呼ばれるのがいやなんですよ。苗字も嫌いで、きちんと名前で呼ばれるのが好きですね」 「え、みんなは何て呼ぶんですか?」 「大抵セレンっすね。でも、戸籍名で大学登録してるから、そっちで覚えた人は変えてくれないんで困ってますよ」 「じゃ、これから塾でお会いしたとき、何て呼べばいいでしょう。セレンさん?」といって「ふふふ」と笑う 「やー、基本的には何でも良いけど。バイト中はしょうがないしね。でも、ケータイはできればセレンで登録しといてくださいね。メアドもセレンだし」  あと、髪型の話になって、俺が塾のときは学校と違う何もしない髪をしているといったら学校ではどんなかと聞いてきたので「ベッカムに似てるかも」といったら「今度それで来てくださいね」というので、「じゃあ月曜にでも」といった 「私、ストレートが似合う顔が良かった。こうサラサラの…」 「あぁ、ヴィダルサスーンみたいな?俺もそれ良いなぁ。手櫛入れて「ウィ、サ、サー」とか言いてー。しかも字幕付で「そう、コレコレ」って出してー!」といったら笑ってた  あと、円周率の話を振ってきたので「実生活で使ったことってあります?」と聞いたら「ないですよ、あるんですか」と聞かれた。「いやね、ピザーラでM2枚頼むのがいいのかL1枚がいいのかってときにちょっと。直径だとM2枚のほうが良いんだけど、面積計算するとL1枚のほうが良くて。義務教育サンキューって感じでした」といったら笑って「変わった人ですね」といっていたので「いや、1回だけですよ、そんなのは」といった  といようなことを話していた。話の内容は思い出した順だから順不同  コーヒーを飲み終えてしばらくしたら「あっ、私がまだ飲んでるから帰れないんですね」というので、「それは大丈夫ですけど、村上さんこそ家は大丈夫?」と聞いたら「メールも来ないなんて、見放されてるのかなぁ」というので、「いいじゃないんですか、それだけ信用されてるってことで」といった 「でも、本当に今何時です」と聞いたら「10時半。わ、9時あがりなのにこんなに話してたなんて…全然知らなかった」というので、もう流石に帰らなきゃなと思った。まだ向こうは飲んでいたが、流石に帰さないと心配するなと思った 「缶、捨てるとこないみたいですね」といったら「家で捨てますよ」というので、「いやいやそんな」と辞退した。気が利くなぁと思った 「でもまぁ、なんだか長々と話しちゃったけど」 「あ、もう帰ります?はい、あ、でもとっても楽しかったから」 「俺も色々話せて凄い楽しかったです。じゃ、おやすみなさい」 「はい」  という感じで別れた。帰ってぼーっとしていたらメールが来た 「紅茶ありがとうございました。月曜はぜひベッカムヘアで来てくださいね(笑)お疲れ様でした」と来たので、「こちらこそ、色々話せて楽しかったです」みたいに返した。メールが来たのは意外だった。竪谷さんといい、女の子はマメだよなぁ。リディアなんかケータイ持たせたら……俺の自由は消えてなくなるな  竪谷さんといえば昨日学校休んだら「今日は来てなかったね。風邪?プリント預かってるよ」と来たので感動した。男衆は一人もメールよこさなかったのにな!  で、そもそもといえば、メールを見てたときに竪谷さんが連破で20件以上続いていたので、こりゃまずいなと思ったんだよな。そもそもの始まりがそれだった  それでこれをどうにかしないとヤバイだろと思って考えたところ、村上さんのメアドを聞けないかなと思ったわけだ。俺が今のところ近付きたくてしかも美人といえば彼女が正にピッタリだ  水曜が4コマになれば彼女とは会えるから、その日にメアドを上手く聞き出そう、あぁ、しかし待つのが辛いなと思ったのがつい昨日のこと。そしたら折良く今日一緒になった。だが誤算は今日は3コマのはずだったからケータイを持っていなかったということだった。それであんな一騒動になったわけだ。何はともあれラッキーでした  強引に聞くのは嫌だと思ったから「取りに帰ろうかな」といったとき、十中八九「今度でいいですよ」といわれると思っていたし、それで諦めようと思っていた。付き合いが良いので心中で感謝した  付き合いといえば、「先生って色んな先生と平気で話せますよね。あれ、凄いです」というので「いや…でも、ちょっと話しかけにくいなって思う人はいるし」といった 「え、誰ですか?」 「そりゃ言えないですよー。でも、色々話すっていっても女の先生は村上さんくらいですね。話しやすいから」というような話をした  しかしまぁ、昨日立てた目標がまさかこんなにあっさり片付くとは思わなかった。今日はラッキーだった。しかも早速メールが来て、女の子の名前が混ざったのでようやく心理的に落ち着けた。「村上裕子」っていうのは画数が少ないので柔らかい感じがして良い。文字が詰まっていると固い感じがしていけない。しかも俺は「ゆうこ」のように「ゆ」の入る名前は女の子らしくて好きだしな。「ユンク」を思い出すから  さて、寝るか。ってもう3時じゃん…  ってゆーか、絶対ここ最近の俺は卒論と受験から逃げるものなくなったから女の子に走ってるな。ふだんはリディアかメルだが、サーズで来れないのをいいことに、確実に逃げてる。それどこじゃないだろって感じなんだがな…