『夜の学校』 2003/06/21  昨日は金曜だった。2限にいったら竪谷さんがきて、火曜のプリントをくれた。3限は出るのと聞いたら「うん、出たい」という。2限が終わったらイバさんと竪谷さんと先生の4人で歩いていた。先生が突然「教科書に書いてある門外漢なんだけど」というが、俺に何か言ってくるとは思ってなかったので「え、僕ですか」というと「ええ」という。それで門外漢の話になった。漢は男という意味だが門外漢は女にも使えるという意味で拡張されていると教科書は言っているが、それは正しいかということらしかった。「正しいと思います」といったら「でも、問題は漢という語は単独で使われることがないということだろう」というので、「単独では使いませんね。あ、ただ、「漢と書いて男と読む」という用例はありますね。そこでは単独で使っています。勿論、ここでは漢は男ですが、これはいかがでしょうか」といった。「そうか…でも、僕は聞いたことないなぁ」といっていた  先生とは文学部棟の1Fエレベーターで別れた。竪谷さんはそのままイバさんたちと8Fにいった。俺は東別館に行ってコンビニで買っておいた丁を食いだした。俺は一番乗りだったが、すぐに丸山先生がきた。「今日は僕が一番乗りのようで」といったら「ははは」と笑っていた  そうしたら大学院の人が来て、丸山先生に英語の問題を聞いていた。俺も混ざってみていると、すぐに竪谷さんが来た。しかし、入り口で立っているので、「これが門外漢の気持ちなのかな」と思って、歓待した。因みに英語の問題は"Have you ever felt any inconveniece when you carry out following questions?"みたいなやつで、微妙に覚えてないが、とりあえず問題になったのはcarryがcarriedではないかということだった。俺は「carriedだと問題が一回しか起こらなかった気がしますね。そういう場面に出くわしたことが恒常的にこれまでに何度かあったという感じを出すためにcarryにしてるような気がしますけど…。条件節ifで動詞が現在形になるのと同じで、ある程度whenとの兼ね合いも考えた方が良いかもしれませんね」といったが、その場では決着が付かなかった。竪谷さんも分からないみたいだった  丁を喰いながら話していたら、どうも卒業後は中国に留学したいらしい。だが、大学院も迷っているとのこと。大学院を勧めたが、卒業後は家を出るので無理かもしれないということだった。家の事情は聞かないことにした  話してて、中国は乾燥帯だというので温帯だといった。「え、でも乾燥帯だよ」というので「じゃーハッキリさせよーか、おねーちゃん」といって地理のデータブックをどんと出したら「なんでこんなの持ってるの!?」と笑っていた  3限が眠くて、うとうとしたが、それでもよく喋っていた  今聞いてるMDは前にフゥシカがくれたものだが、その中の1曲がどうも韓国語ではないかという感じがする。もらったときからずっと何語か気になっていたが、なんとなく韓国語ではないかと踏んでいた。そしたら今日いつもの韓国人のお姉さんが横にきたので頼んで聞いてもらったら、にっこりとして「韓国語です」といった 「でも、鼻声で何を言ってるのかよく分かりません。恋の歌みたいです」と教えてくれたので礼を言った  で、その人と別れて竪谷さんを見たら、「出よっか」という目をするので席を立った。廊下を歩いていたら「ねぇ、4限でるの?」というので「めんどいなぁ」といった 「だめだよ、でなくちゃぁ」 「まぁね。流石に出ようかなぁ」 「うん、出たほうがいいよ。あのね、それで…4限後時間ある?」 「え?うん、大丈夫だよ」 「じゃあ、勉強会しない?」 「あぁ、いいねぇ」 「じゃあ終わったら8階で「〜ている」と「〜てある」を調べてるから」 「わかった」  といって別れた。が、教室が分からないので結局サボって先生の部屋へ行った。コさんとチンさんがいた。大谷さんも来た。更にその後女の子が2人来た。俺の時間は僅かだったが、とりあえず構想を語ったら「題名は大まかでいいです。内容は11月までに書けば」という。「良い卒論はどんなのですか」と聞いたら「ちゃんと自分で理論を立てて、検証できるデータがあって、例外も上手く説明できてるものです。しかも従来のものより合理的なものです。あと、単純な話として100枚と聞くと凄いと思うということもありますね」という。良いことを聞いた。でも、「僕はずっと理系でしたからね。科学という言葉に対しては厳しいですよ。そんな規則を立てる従来の言語学は。科学じゃないですね」とハッキリ喧嘩を売ってしまった。そしたら「うん、だから最近の言語学はそこから脱却しようとしていますけど」といっていた  4限が終わったので外に出て、待っていたら来た 「ふふ、4限でなかったでしょ」というので「なんでわかったの?」と驚いた 「なんとなく…ね」 「うん、先生の部屋にいたんだけど、本を紹介されたからジュンク堂に行こうかなと思って」 「あ、じゃあ良いよ行って」 「いや、まだ別に良いよ。ってゆーか、勉強会ってことで呼ばれたんだけど、何をするの?」 「え…。あー、うん。特に…いや、こないだ話したけど、話足りないなぁって思って」 「そっか。じゃあ、8階に特に用があるわけじゃないんだ」 「うん」 「なら別のところでいい?ここは暑くて嫌なんだよね」 「うん、いいよ」  エレベーターに入った 「そういえばジュンク堂って行ったことある?」 「ううん、ないの。一度行ってみたいんだけど」 「じゃあいこっか」といって足を見る。スニーカーを履いている。サンダルじゃない。大丈夫そうと思った。そこで初めてスカートを履いてることに気が付いた。水色で花柄のスカートだ。いつもズボンなのに珍しいと思った。暑いからか。上着は2、3枚着てた。下が白で、上が黒いフリルの付いた綺麗で可愛いものだ  そのままブクロへ歩いていたら「聞いたよ。韓国で女の子にもてまくって写真ねだられたんだって?」という 「あぁ、まぁ…。日本じゃないからね。韓国人受けが良いらしいよ」 「じゃなくて。韓国人の女の子は素直なんじゃないかなぁ」というのでなんかリディアに言われたなと思って、話をそらした 「でも、半分ヤな感じだったよ」 「え、なんで?」 「タカも真横にいたんだよ。なのに俺だけだったから。悪いかなと思って。タカ微妙に不機嫌だったろうし」といったら笑いながら「彼、小物だねぇ」というので、随分サクっという娘だなと思った  保育園の近くで「じゃあ、俺もばらすけど、実は古谷君って竪谷さんのこと好きだったんだよ」といったら驚いてた 「え!?だって、彼女いたじゃん!」 「へ?そうなの…?」 「なにそれ!え、でも、全然知らなかったよ。いや、それは話に尾ひれが付いてるだけだって!」 「はは、大きい魚を逃がしたって思ってるでしょ」 「そんなこと。それ絶対違うよ。だって私、夏休み終わったら彼の名前覚えてなかったもん」というのでそれは酷いなと思った。タカの近藤さんといい、古谷君の竪谷さんといい、女ってのはどうしてこう…って、俺も同じか  ジュンクに着いたが、ハンズでアルミ板を12.5に切ることを思い出して説明したら、「じゃあ行くよ」というので一緒に来てもらった。ハンズで切るのを頼んで、30分くらい色々見て回った。村野さんの発表用の文房具をみたり、アートクレイの話をして見に行ったり、ついでにシェルトとかの話もした  刀があるので「刀みたいな」というと「あー、見たい」というので変わってるなぁと思いながらみてた。しかし、手裏剣500円は衝動買いしそうだった  加工が終わったので駅に向かったが、ジュンク堂見たいと聞くと見たいというのでまた向かった。途中、噴水のある公園を歩いていたら「あ、ガクアジサイだ。私、これ好きなの」という。アジサイの花が小さい奴で、「へぇ、みたことあるよ、このアジサイの子供みたいなやつ。花の中に花がある感じだね。古典に出てくるの?」といった  公園を出て、下を見たらスカートで露出している踝の部分が蚊に食われてた。「あ、食われちゃってるね、大丈夫?」と聞いたら「うん、ちょっと痒いけど」という  ジュンクにいった。途中で「前も聞いたけど、優しくて、人当たりいいよね。私にも周りにも。それもやっぱり演技なの?」といわれた。「はは」と笑ったら、「あ、ごめん、別に良いの…」といってきたので、「別に演技なんかしてないよ。今だって全然気楽だしね」といった。 「4階にカフェがあるよ。先生にチケットをもらったから、飲もうか」といって4階に行ったが、ちょうど6時で閉まった。今日はトークセッションがあるので6時で終わりらしい。あそこにはいつも縁がないな。フゥシカといったときも同じだった。結局一度も行ってない  彼女は「こんな大きな本屋みたことない!」といってはしゃいでいた。結局4階と3階を案内した。言語のバックで「オノマトペの世界」と、後何かの本を買っていた  随分だらだら歩かせた割にあまり構ってあげてなかったから、かなり罪悪感があった。結構ハンズでも待たせたしね 「先生にいわれた本探してていいよ。私は駅さえ分かれば帰れるから」というが、今別れるとヤな感じだなと思った。かといって「もういいや面倒くさい」と向こうが思っていたらこれ以上いるのもなんだなと思った。外に出て、「ちょっと腹減ったから、俺はそこのヴェローチェで少しつまむけど、どうする?」と聞いた。かなり消極的だが  そしたら意外にも「あ、私も一緒に行って良い?」というので、「勿論、勿論」といった。ヴェローチェでパンとカフェオレを頼んで、階下で食べた。意外とうるさくて声が聞こえないところだった。そういう意味じゃメル御用達のドトールの方が良いな  なんか小説の話やアルカの話になった。俺がペンでナプキンに色々図解とかしていた。卒論のネタであるトンナンシーペイなんかの謎を1つ1つ順を追って解説してしまった。相変わらず女は怖い。男には絶対言わないのに、女の子相手だと何でも喋らされてしまう。天性の聞き上手だな  調子に乗ってアルカやミールやアティーリや儚の説明までしてしまった。儚は特に面白がっていて、読みたいと言っていた。「すごい論理的だね。「も」1つに還元っていうのが凄い。でも、主人公って暇な医者だね」といって笑っていた。「も」のロマンが分かる人に初めて出会えて嬉しかった  神話まであるということには驚いていた。「貴方たちってほんと、何やってるの?」といって驚いていた。あと、俺が色んな話題を振るので「今まで何やって生きてきたの!?」といって感心していたようだ。「大体知識源は大河原君だよ」というと、「あぁ、例の人ね」という。「すごいよね、その人」というので「ある面では殆ど神だね」と答えた 「でも、高校のとき不良だったのに、随分色々書いてたんだね」 「うん、サイジムって文房具屋がある曜日に安くてさ。いつも原稿用紙買いに行くとダチに出くわすんだよ。でも、原稿用紙買ったとはいえないから、「あー、ルーズリーフ」とかいって少しはごまかしてた」といったら笑ってた  ヴェーロチェで随分楽しく話してしまったので、今度は逆の意味で別れがたいと思ってしまった。全く以ってフゥシカといるときと同じで、100%ヴァールとは逆の感覚だ。とにかく彼女は落ち着く娘だ  俺は「あ、ごめん。なんだか俺ばかり話してるね」といったら「ううん。それにこういうのはネタもってる人が話すべきだよ。それに、面白いしね」といっていた  8時過ぎに喫茶店を出てから、駅に向かった 「目白まで行かなくていいの?」 「ブクロで大丈夫だよ」 「でも、定期ないでしょ」 「あー…」 「目白でいいなら付き合うよ。こんな時間まで付き合わせちゃったし」 「いいよ、だって逆方向じゃない」 「俺はノリ次第でそのまま蛍を見に行くから。あ、勿論迷惑だったらやめとくけど」 「いいの?…じゃ、あるこっか」  というわけでまた目白まで歩いた。途中、俺が「同じ道はつまらねぇ」といつものようにほざいたおかげで見事道に迷って、目白の住宅街をうろうろしていた。けど、それも中々楽しかった。途中で遠くに黒猫を見つけた。俺が立ち止まると「何するの?」というので、「いや、抱こうかなと思って」といって近寄った。コリンの声真似して「まぉにゃー」といいつつ近寄った。目は合わせない。姿勢は低く。手は下から。そして近付き過ぎない。すると黒猫は向こうから擦り寄ってきた。俺がにゃっと抱くと可愛く納まっていた。なんかつい先日もこんなイベントがあったような…ときメモの世界か?と思っていたら、竪谷さんが「すごーい、よく手なづけられるね」という 「ウチ、猫いるからね。撫でる?」 「あ、ううん、いい…。私、動物飼ったことないから接し方がわからないの」 「そっか」というと猫がにゃーという。これは「もうどっかいくよ」のにゃーだなと思ったので降ろしたら、こっちをみながらにゃーにゃー言ってた  竪谷さんが笑いながら「それより、あの声どっから出してたの?」という 「猫の真似。似てた?」 「すごく。なんでまた」 「さぁ…俺らが外国歩いてるときに日本語で話しかけられると安心するじゃん?だから猫も猫語で話しかけられた方が落ち着くかなと思って」  その後、黄色いバラを見かけた。急に立ち止まって「わぁ、黄色いバラだぁ。私、好きなんだぁ」という。その後色の話になった 「緑が好きなんだけど、昔は一時期緑を避けていたの。でも、やっぱり緑に帰ったの」 「あ、わかるわかる。俺も赤が昔そうだったな。もうちょっと卑近な例だとラーメンでさ、ミソ→しょうゆ→ミソと帰ってきたしね」といったら笑ってた  そうこうしているうちに学校に着いた。ここでお別れかと思ってふと西門を見た 「まだ、学校って入れるのかねぇ」 「多分…」 「や、一年のとき安藤君と着たけど、駄目だったな」 「そうなの?私は大丈夫だと思うけど…」 「じゃあ、ちょっと実験」といってスススと入っていったら意外に何も言われなかったので、入っていった 「へぇ、入れるんだぁ」といいたながら歩いていたら「血洗いの池…行く?」と聞いてきたので、「あ、いいねぇ。いこっか」と答えていった  行ったらカップルがいたので、邪魔しちゃ悪いから帰ろうかと思ったが、「向こうなら大丈夫じゃないかな」という。橋の向こうのことをいっているようで、なるほどと思った。あっちにも木製のベンチがあるはずだ  橋を渡ってアジサイを超えてベンチを見つけた。水面を一望できるところで、背中が高い塀で、塀の向こうは駅だった。黎明からの明かりが水面に丸く映って、月がたくさんあるみたいだった  人が来るときだけ付く街灯がしばらくしたらパッと消えて、殆ど真っ暗になった。お互いの顔もよく見えない感じだ 「眼鏡を取ると光がもっと綺麗だよ」という。かなり吸い込まれるような光景だった。こんなに夜の学校は綺麗なのかと思った  俺が「あかり…消えたね」といったら「うん。こっちの方が良い」という  暗いもんだからか、妙に下ネタの話を降ってきた。いつもはそういうことを言いそうな娘ではないのだが。痴漢にあったとか、ナンパされた上に追っかけられて怖かったとかいうこと。どう痴漢されたかを事細かに話していた。どこを触られてどうスカートをというような話で、しらふなのに夜だと話すなぁと思った。俺もいい加減のっちゃって、電車で痴漢されたし痴女子高生にあった話もばらした。そしたら「あぁ、でも、それって顔が綺麗だからじゃない?」といってきた 「きれいって、俺が?」というと、神妙な声で、「うん、きれいですよ」といってきた。韓国旅行の話のときは明るかったから話をそらしたが、ここではそらせない雰囲気だった  あと、面白い話を聞いた 「それより、私を狙ってる男がいて、凄く嫌なの!」 「どんな男?」 「一個下で、未だに授業で同じになると寄ってきて挨拶してくるの。私、生理的嫌悪がでちゃってダメなの!」 「へぇ…生理的嫌悪かぁ。どんな見た目なの?」 「黒尽くめで」 「前の俺じゃん」といって笑った 「あ…いやぁ。で、声が低くて、高くなくて…あー、思い出すだけでイヤ!」 「そこまで言われると見てみたいな」 「いやいや、みないで!しかも私、ガクサイのときにセクハラまがいのことされたの」 「セクハラ?どんなの?」 「出店をしてたんだけど、そのときお釣りを返すドサクサに紛れて手を触ってきたの。あとね、私が片付けしてたら真後ろにいつの間にかいてね。で、私倒れちゃったの、そしたら支えてきて!私ふりかえったら目の前にそいつがいて、もう!」 「身の毛もよだつ感じ?」 「そうそう、こーんな感じ」といって身震いしてた 「でね、私そこで「ありがとう」なんて口走らなかっただけ利口だと思うよ。むしろ「何支えてんのよ!」って軽く睨んでやったもん。ってか、むしろ片付け手伝えよ!って思ったもん」というので、怖い女…と思った。何か殴られたり誹謗中傷されたわけでもないのにそこまで他人を嫌うなんて出来ないだろと思った  でもまぁ、女の方が触覚が鋭敏だと書いてあったから、よっぽど触られたのでイヤだったんだろうと思った。男の俺でさえ痴漢されて最悪だったからな 「まぁ、触られればヤだよね。俺が今触ったらとたんに嫌いになるでしょ?」 「え?ううん、それはないよ」 「…?そうなの」  じゃあどういう理屈だと思ったが、話を変えることにした 「ってゆーか、そいつの名前なんていうの?」 「え、なんで?」 「や、ぶっちゃけそういう男、嫌いなんだよね。俺とか男相手には怖くてやれないくせに、女の子にはやるわけでしょ」 「やだよぉ、ぶっとばしたりしないでよー?」 「しないしない、竪谷さんに迷惑かかるじゃん」 「でもなぁ、来週あたり松葉杖ついてきたらどうしよう」といって笑ってた 「そしたら今度は知らない間に後ろに立たれることなくていいじゃん」といって笑った 「んとね、哲科4年の青木ってやつ。うわー、もう気持ち悪くなってきた!」 「へぇ、じゃあそいつが竪谷さんの好きそうなネタを振ってきたらどうするの?哲学的な」 「え、うーん。そしたら「えー、わたしぃ、わかんなぁい♪」っていって逃げる」といったので大爆笑した。その言い方どこで覚えたみたいな 「それ、竪谷さんじゃないって」 「やっぱり?」  なんか、その後まじめに見られたくないというので「眼鏡を取ろうよ」といったら「今日は本当はそのつもりだったんだけど、風が強かったから」という  時計を見たら10時なんで驚いた。いくらなんでももう帰さなきゃと思って席を立った。正門が通れなそうなので馬屋の方から出て行くことにした。ついでに3年ぶりに馬を見ようと思った  池から乃木館の方へいった。途中で林道みたいなところを通った。完全に真っ暗で、「怖い」といっていた。「じゃ、俺が先に歩くよ。足元気を付けて」といった 「倒れるかも」 「そしたら俺が青木よろしく支えるから」といったら「もうっ」といって怒ってた  振り向いて大丈夫かなと思って、「手、つなごうか?」といったら「うん」といって右手を出してきた。俺は左手で繋いだ 「嫌悪感、感じる?」とからかったら「ううん、ちっとも」といった。明るいところにきたので「もう大丈夫だね」といって話したら、「ありがとう」といってきた  そのまま構内を歩いてるときに、和歌の話になって、1年のときに好きだった男がいたという話をしてきた。その男を思って恋しすぎて乱れた心を静めるには交じり合う他はないという直情的な歌を授業で書いたらそれが次週に読まれたという話だった 「で、その人とは成就したの?」 「私の友達と付き合っちゃった。笑い話だよね」 「そっか…。今彼とは?」 「もう随分変わっちゃったから」 「どんな人だったの?」 「きつそうなひと。あと、楽器が上手かった」  ん?きついのどこが良いんだと思ったが、聞くと失礼なので黙っていた  馬屋門は通れなかったので、結局西門まで戻った  セレンという名で呼んでほしいということを言ったら、「じゃあ、セレン君?」といったが、その言い方が99%リディアそっくりで、びっくりした。「あ、それいいね、しっくりきたよ」といったら「うん、セレン君」といった  そしたら「私も苗字がなぁ、竪谷って固そうでイヤなの」という 「そうなんだ」 「いや、だからね!」 「あ、そっかそっか。うん、俺だけ名前で呼ばれるのも変だよな。でも、教室でみんないるのに名前で呼んでもいいの?」 「うん、いいよ」  そうして駅に行ったらピタっと止まるので、「どうしたの?」と聞いた 「同じバンドの人がたむろしてる」 「ああ、あれか…。ばれると色々いわれそうだもんな」  チラッとみたらこっちをみながらコソコソ話しているようだ 「あのさ、非常に言いにくいんだけどね……バレバレ」 「うん、知ってる…。でも、私が気付かないことにしてれば良いから」 「じゃ俺、地下を通っていくよ」 「いいよ、そんな。めんが割れるのがいや?」 「俺はいいけど、君がからかわれそうで」 「私はいいよ」 「そっか。まぁ、でも、一応こっちから行くよ。今日は遅くまでありがとう。楽しかったよ。じゃあ、気をつけてね」 「うん、ありがと、セレン君」  で、別れた。夜の学校というのはあんなに風情があるんだなぁ。相手がリディアだったら絶対その場で抱いてたな。目に見える  結局別れたのが11時少し前。10時代なら間に合うけど、というようなことをいっていたので心配した。俺が帰ったのが12時すぎ。ブクロまで歩いたしね  風呂に入ったが、どうにも不安なのでメールを出した。「無事帰れた?」と送ったら、うん帰ってきたよという。母親に迎えに来てもらったそうだ 「よかった、これで安心して眠れるよ。今日は遅くまでありがと。また誘ってくださいな」と書いたら、「くださいなといわれちゃあ(笑)しちゃうよ。今夜はお互いぐっすりだね。 ありがとね。じゃ」と来て終わった  ところで、電車で帰りながら俺はかなり苦い顔をしていた。1月に中1の娘を抱いて飽きてからここのところずっと女から遠ざかっていた。そのおかげで最近特にやってない。メルもリディアもあまり来ていないし。そっちの方はもう満足したので女遊びは止めた。と思っていたら今度は精神的な付き合いが色んなところから降ってくるようになった  竪谷さんはまぁリディアのことを知ってるだろうから安心だと思ったいたが、今日のは客観的に見れば絶対カップルに見えるだろう。かなりいいムードだったんじゃないかと思うと恐ろしいものがある。メルに言わせれば極めて不味いんだそうだ。俺もそう思う。今までみたいな体の浮気ならなんとでもなるけど、心の浮気は致命的だ  竪谷さんは良い人だけど、女として好きになることはまずないだろうけど、そもそも体の浮気に飽きた俺がこういう乗りで何人かの女の子と接していれば、確実に不味いことになりそうだ。こちらから誘っていないんだが、1月から急にそういうタイプの娘が寄ってくるようになった。今まで寄ってきた一晩限りの娘タイプは寄ってこなくなったのに  道々思ったことが、「俺ってわりと女にもてるんだなぁ…」ということ。今までは体だけだから見た目だけで判断されてると思ってた。あと、オザマのことをいえねえなぁ、観覧車スルーに近いよなぁとも思った。でも、知り合ってそんなに立ってないから別に俺を男としてみてるということはありえないだろうと思い、杞憂にした。あるとしてもあの雰囲気に呑まれただけだろう。女の方が男より恋愛と友情は線引きするらしいから、俺の杞憂だろう。だからスルーではないはずだ  もしスルーだとしても俺にはリディアがいる。メルもいる。流石に三股は無理だ。そんなに体がもつもんか。だから一番気にしたことが、もしスルーだとした場合、どうやって彼女を傷つけないようにするかということだった。そればかり考えていた。スルーじゃなければ杞憂なので良いが、スルーだとしたらどうやって丸く納めるか。結論としては、スルーじゃなきゃこのままで、スルーなら友達のまま続けて熱が冷めて落ち着くのを待つ。今までの俺ならシカトするとかしてたけど、流石にそんなことできない