『堀に降る雨』 14,ral,jil  おとといのral,liiは火曜だった。村野さんの模擬授業だった。タカと八嶋ちゃんが準備係だったのに、超ずさんな準備だったので、俺もナリも結構むかついていた。いったら小道具さえ作ってなくて、「さぁ作ろう」という状況で、教案もダメダメだった。しかも八嶋ちゃんは殆ど何もしなかった上に沖縄にいったそうだ。盧君は1限があるので俺とナリとタカでリハしたが、タカが使えない。しょうがないから俺がどうにかまとめてリハした。で、発表になったわけだが、当然結果はボロボロ。なのに村野さんが「思ったより良かった」と皮肉をかる〜く言って去っていった  俺は村野さんに当てられたので反省点として「慌ててしまった」といったら皆が一斉に「えっ!?」といった。村野さんが「全然冷静でしたよ」という 「え…そうですか。自分では相当焦ってたほうなんですが。あと、生徒役を当てなかったのと、生徒役の目を見なかったのもいけませんでした。ただ、声はできるだけ全体まで行くように配慮しました」 「そうですね。声は非常によかったですね。発音もいいし、きちんと通るし、ゆったり優しくて。でも、教案はいくらなんでもいい加減でしたね。どうしてああしたんですか?」 「いや…」  ここでタカのせいにはできないなと思った。タカに恥じかかせちゃうし、俺自身も見苦しい 「貞苅さんの好みですか?」 「あぁ…はい」と嘘をついた。ところが後で8階にいったら村野さんがいて、事情を説明したら「なるほど、それで中々答えなかったんですか」といわれた  紗智枝はこの発表で呆れたかなと思った。向こうは4限の日本語教育のにまで出ているから目がシビアだろう。しかし、俺が喋っていたときにニコニコしていたので、まぁ大丈夫かなと思った  そういえば、ナリとタカには紗智枝のことをいっておいた。どうやってどうなったのということを野次馬してくるので、「付き合うことになった日に目白でキスした。初めてだったらしいよ」といったら、総すかんを食らった。タカは「よくあの竪谷さんが許したな」といっていた。つーか、ナリに至っては「くそっ、呪ってやる!」とまで言っていた。おいおい。タカは「展開早すぎだろ」と言っていた  ナリは3限がないので、俺の3限の教室で飯を食っていた。紗智枝のことを話していた。裕子のことを話していたら勘違いされたので、説明していた。ちょうど俺がヒートアップして、大声で「だから、俺が好きなのは紗智枝で、他はどうでもいいんだよ!」といったとき、なんとドアの前を紗智枝が通り過ぎていった。俺が「ってゆーか紗智枝じゃん!」といったらナリも「あ、本当だ!」と驚いていた。どうも横で授業を受けてるみたいだ。なんだこの奇跡的なタイミングは!  ナリと別れて紗智枝のところにいったら女の子と楽しそうに話していた。多分、渡辺さんという娘だろう。そのまま俺は戻った  ところで、こないだの金曜に付き合うことになったときに、火曜にデートしようということになっていた。紗智枝は4限までというので、待っていた  4限で曽田とホテハマにあったので、暫く西5で話していた。外に出て、ピラ校近くで掲示板に近い方のベンチにいた。タカから少し前にメールが来ていたので返したら、ちょうどそのときタカが付近を歩いていたので驚いて声をかけた  タカに「なんでこんなとこにいるの」と聞かれたので、「これからデート」と答えた。「ふーん、まぁいいんじゃないっすか」といわれた タカ「けど、急展開だよな」 俺「うん、でもメールが休日の間に向こうから来なかったんだよ。あまりこっちに気がないのかもな。淡白なんだよ、きっと。来週にでも向こうからやっぱ止めようって言ってくるよ」 タカ「俺はそうは思わないな。長く続きそうだけど」 俺「うーん…」 タカ「しかし、もうそろそろ竪谷さんが来るわけだろ。俺がいたらオロオロしようじゃない?超そのときの顔みたいんだけど」 俺「あのなぁ…恥かかせるなよな。紗智枝が嫌がるから俺はもう行くぞ。じゃあな」  図書館に移動した俺は、飽きて外に出ると、紗智枝からメールが来た 「今終わったよ、どこにおられます?」 「掲示板かな」  そう書いて掲示板に歩いた。掲示板にいったら紗智枝が掲示板をぼーっと見ていた。俺が声をかけると振り向いた 「そういえば今日話すの初めてじゃない?」 「うん、そう狙ってたもん」 「だと思った。発表中チラッと見たら思い切り目をそらしてたもんな」 「うん、狙い通り。で、どこに行くの?」 「服をね、買おうと思ったんだけど、どうせなら紗智枝に選んでもらおうかなって思って」 「うん、いいよ。でも、私、センスないよ…」  それでブクロへ歩いた。リブロの前で渡辺さんの話になった 「あぁ、隣の教室にいたね」 「えっ!?いたの!?」といって笑うので、「どうしたの?」と聞いた 「渡辺さんが、隣(左隣)は長嶋先生だからセレン君いるんじゃないのってからかってきたの。でも私は新川先生だって知ってたから「えー、いないよー」って言ってたの。そしたら逆隣かぁ」  そういっては笑う。何が面白いのか分からないが、笑っていた 「そういえばね、すごいの。渡辺さんにセレン君と付き合うっていったら彼女ね、私とセレン君が付き合う夢を見てたって言ってたの」 「そりゃ凄いな。預言者みたい」 「でしょ?私とセレン君が池で会ってたとか、そういうこと何も言ってなかったんだよ。彼女、せいぜい授業で一緒にいたのをチラッと見た程度なのに!」 「うーん、ミドルネームを夢見にしたいなー」  紗智枝が行きたいというのでそのままジュンクへいった。俺は今月の言語と『楽しい古事記』とかいうのを買ってみた。紗智枝は音の万葉集というのが売り切れてるといってこの前買っておけばよかったと嘆いていた。俺がパソコンで検索してみたが、やはり在庫切れだった  サンシャインにいったが、特に服が見当たらない。アクセサリーを見に行くことになって、野盗っぽい店に入った瞬間「セレン君、こういうとこ似合うね」といわれた。「怖い?」と聞くと「ううん、けっこう好き」という  歩いていたら中々暑い 「暑いね」 「うん、この上着本当は秋用なの。だから暑くて」 「え、なんで秋用なんて着てきたの?」 「だってセレン君が前にこれ好きっていってたから」 「あぁ…言ったなぁ、確かに。紗智枝、かわいいなぁ」  そのままサンシャインを見ていたが、結局いいものがなくて止めた。婦人服があったので見ていたら紗智枝が「セレン君はどんなのが好き?」という 「ひらひらしたやつかなぁ。でも、好きなの着ていいよ」 「私はセレン君が好きなのを着るつもりだけど」 「自分の好きな格好でいいよ」 「んー、そういうこというと本当に自分勝手にするよ。いいの?」 「あー、すいませんでしたー。むっちゃスカートはいてほしいです」 「うん、着る」  サンシャイン道りを歩いていたが、やはりそちらも特にない。ゲーセンの前を通ったのでプリクラ撮ろうかといって入った。ビーマニに似たポップンミュージックとかいうのがあって、やってみた。やり方が分からないので説明を見ていたが、多分ビーマニと同じような感じだろうと思った。要するに線に音符が来たら叩けばいいということ  はじめは俺がやってみた。レベル6。これはクリア。次の面は紗智枝にやらせてみた。レベル4。しかし全然ダメで、終わってしまったので、もう一度やってみた。結局紗智枝が聴きたい曲を選んでいたらレベル10とかまで行ってしまったが、3曲全て弾き終えてクリアーした。紗智枝は難しさを知っているので「すごーい!」といっていた。やっている途中に肩にかけていた上着が落ちたら、何も言わずに拾ってくれていた  俺も調子に乗ってやっているうちにアッサリ上手くなってしまい、レベルは上がってるのにむしろ点が高くなってるという不思議な状況だった。終わってから自分で「やっぱ高校のときのせいで遊びなれてるなー、俺」と思った 「私、ゲーセンじゃ何も発揮できない…」 「遊びなれてないからだよ、大丈夫」  UFOキャッチャーがあった。何か欲しいか聞いたが、興味がないらしい。で、プリクラを取った。オザに言われてたとおり、キスプリクラを取った。撮影時間残り10秒ぐらいになって急にいったら「えぇーっ!」といって慌てていたが、スッと奪ったら抗わなかった。その後はふつうに撮っていたが、紗智枝は「緊張してすっごいブスになってる…」といって嫌がっていた。「てゆーか、セレン君、顔エロい」といって笑っていた。落書きができるのでアルカで色々書いていた。紗智枝が「昨日のメールのおやすみってやつ書いて」というので「古アルカとどっちがいい」と聞いたら「そんなに昔からあるんだ。じゃあ古アルカで」というので書いた。かなりプリクラでは盛り上がった  そのあと太鼓ゲームがあった。やはりビーマニ系。紗智枝もやりたいというのでやってみた。俺も初めてだったが、できた。コンピュータが点を出すが、紗智枝は80%ぐらいの成功率だったそうだ。で、俺は途中1つ間違えて99%になってしまった。なんか、俺ってやっぱ運動神経いいなぁと思った。そして、できずに戸惑ってる紗智枝が可愛いなぁと思った  ゲーセンを出て目白のドトールにいった。勿論歩きで。途中、紗智枝が「そういえば、お父さんにいったよ、彼氏できたこと。本当は喋りたくないけど、みせびらかしてやりたかったから。「彼がね、カラオケで歌ってくれたのぉ」っていった」 「なんていってた?」 「ふーん、みたいな感じ」  冷たい親だなーと思った。ドトールに着いた。1階の奥だ。門限を聞くと9:30に目白を出れば大丈夫という  ドトールでは学問の話が多かった。和歌は平安に入ってから75調になったが、それまでは57だったが、その原因は不明だといわれた。といわれても75や57がなんだかサッパリわからんので、説明してもらった。また、歌は和歌だけじゃないんだそうだ。でも、当時は和歌が主流だったんだそうだ  俺はそこでなるほどと思っていくつか可能性を提示してみたが、どうも釈然としないし、紗智枝もすぐ的確に反論してくるので面白い。どうも歌は57が基本だそうだ。長歌などは57575757とどんどん続けて最後に終わりましたよという印に7を付けるんだそうだ。和歌も同じで、57が2ペアあり、そこに終わりの印として7を付けるらしい  俺はそれを聞いて原因が分かった。57577という和歌は和歌が定着しない万葉では5757+7という認知がされていた。最後の7はピリオドの役目を持っているので、全体を構成する部分にはなっていない。するとこの状況では5757はどこで区切るかといえば真ん中のところだろう。すると57+577になるので万葉は57調になる  ところが和歌が当たり前のものとして当時の人の頭に受け入れられると57577をこれで1つの全体と見るように認知する。最後の7はおまけでなく、全体を構成する部分に見えてくる。こうなると句をどこで区切るかという問題に直面したとき、57で切ると、前半が12拍で、後半が17拍になってしまい、バランスが取れない。ところが575で切ると、17:14になり、差が尤も少なくなる。人間は2つのものを分ける時はできるだけバランスよくしようという認知システムを持っているため、千年前の人間がそう考えたのも頷けることだ。そもそも紗智枝の説明では歌は57が1つのユニットだったらしいから、平安の75調はその時点でおかしい。57で1つの単位ならなんで5と7の間で切るのか。575757…となっているのを57+57+57で区切るなら自然だが、5+75+75などというように単位の内部で区切るのはおかしいだろう。にもかかわらずその不自然さを敢えてやっているからにはそれなりの原因があるはずで、俺はそれが拍数のバランスだと踏んだわけだ。バランスが取れているほうが認知しやすいし、ゲシュタルトも構成しやすいはずだ  そのことを1つ1つ図解で説明していった。はじめは紗智枝も「短絡的過ぎて危険」といっていたが、次第に「ありえるかもね…」といい、最後は「レポートに書けるかもしれない…」といっていた。だが、俺には全く古典の知識なんか知らないから、いい加減なことを言っているだけかもしれないよということは言っておいた  ドトールで写真と絵を見せた。写真は「怖くて近寄れない。今のほうがいいです」とのことだった。絵は「かわいい。でも、あの写真の不良が描いていたとは思えない。エヴァンゲリオンに似てるね、雰囲気が」とのこと  9:30になったので、外へ出た 「少し散歩していい?」と聞くと「いいよ」というので学習院へ行った 「え?もしかして学校に入るつもり?」というので「うん」といった  ところで今日は雨が降ったり降らなかったりしていたが、俺は傘を持ってなかった。紗智枝は水色の折り畳みを使っていた。雨が強くなると俺の近くに来て、入れてくれるのだ  構内を適当に歩いていた。池は転びそうだから嫌だというのでピラ校周りの堀にいた。俺がふと「先に言っておかなくちゃいけないんだけど、俺ね、本心は凄い冷たいんだよ」といった 「え、冷たいって?心が?」 「ああ」 「そんなことないと思うけど」 「うん、俺は感情の振幅が激しいんだよ。好きだと凄い好きだから正直に歯の浮くようなことを本気で言うんだよ。けど、感情が激しいってことはマイナス面にも激しいってことで、嫌いになるととことん嫌いになるんだよ。しかも原因が一定じゃなく、本当に些細なことである日突然嫌いになるってことがあるんだ」 「そうなったら謝ってもダメなの?」 「ダメだね。一度嫌いになったら二度と修復しない。中3から付き合ってたダチがいたんだ。去年授業に遊びに来たよ。でもそいつとも些細なことで「あ、もういいやコイツ」って思っちゃって。それでもう…」 「向こうは何か言ってきたの?」 「電話とか来たよ。でもダメだった。全く心が動かないんだよ。そういうとき、いつも嫌なくらい冷たい男って思うんだよ」 「それって、私ももしかしたら嫌われるってこと…?」 「…嫌うかもしれない」 「…そっか…」  けど、紗智枝は特に怒ったり帰ったりすることはなかった。むしろそれまでより俺の近くに来ようとした。距離を縮めてきたし、言葉遣いも親密なものになっていった。俺はこれで嫌われるかなと思っていたから意外だった  そのまま数m歩き、ピラ校の軒下みたいなところで座って堀を見ていた。理学部の掲示板があるところだ。流石に誰もいないし、偶に人が通るくらいだ  座っていたら雨がかなり降ってきた。堀に雨が降って、それが稲のように立つのが分かった。堀の水管から水が流れていて、雨のしとしと降る音も聞こえた。横には芝生が青々としていて、夜霧が立ち込めていた。うっとりするくらい綺麗な場所だ  俺は疲れていて、弱気になっていた。雨の雰囲気に負けてボロボロと余計なことをいってしまった。アシェットのことを話した。テロ組織まがいで、和平前は命を狙われていたことも話した。なんで人と距離を置くかということや、自分の嫌なところも話した。紗智枝は聞いてくれた 「私も自分の弱みをみせれば安心してくれる?」というので「うん、聞きたい」といった。やはり体のことだった。幼稚園のころから大きくて、なのに3月生まれだからいろんなことができなくてバカにされたんだそうだ。頭を撫でられるなんてこともなかったそうだ。人と同じことしたいのにできなくて、嫌だったそうだ。人前で歩くのが嫌だったんだと 「最近ね、こわいの。周りの娘が恋愛してるのを見てて、私はわからないなって思ってた。自分以外の誰かの存在が自分の中で大きくなるなんて考えもつかなかった。でもね、最近セレン君が凄い大きさになってるの。私の中のかなりの部分を占めてるの。何かしていてもセレン君のこと考えちゃうし。でもね、強くもなれた。こないだ初めて人前でふつうに歩けたの」 「そうなんだ。俺も役に立つんだ…」 「高校のときに回りは恋人いて幸せそうで、羨ましかった。でも、あのとき自暴自棄にならないでよかった。とっておいてよかった…  キスってね、私、ずっと嫌いだったの。だって気持ち悪いじゃない。口と口を付けるんだよ?絶対気持ち悪いって思ってた。だから、こないだので驚いたの。全然想像と違ってた。実はね、お母さんに言っちゃったんだ、キスのこと。凄いロマンチックでね、私は夢を見させてもらったよっていったの」 「言ったんだ」 「うん。私ね、色んなところに連れてってくれるのは嬉しいけど、本当は一緒にただ居て、喋ってるだけが一番嬉しいし楽しいの。それをお母さんに言ったら、そういう関係は一番幸せだったいってた。大事にしなさいって。ほんと、自暴自棄にならなくてよかった」 「古谷君の話を出されたとき、凄いショックだったんだよ。あんなこと言われたから好きな人いないなんていったけど、私、むちゃくちゃセレン君に気があったんだから。それとね、私のこと、前の彼女に似てるっていわれたときも凄いショックだった。もうダメだって思ってくらくらしたもん。でもね、私、ここで諦めて帰るもんかって思ってずっと頑張って居座ったの」 「あぁ、それで中々帰らなかったんだ。紗智枝、なんか落ち込んでるなとは思ってたけど、そういう理由だったんだ」 「本当に気付かないってところが信じられないよね。セレン君、絶対今までそうやって数え切れないくらいの女の子捨ててるよね。その気になればいくらでも女の子なんて落とせたんじゃないの」  まぁ、セフレなら昔からかなりとは思ったが、それは言わないほうがいいだろうと思って黙っていた 「セレン君がこっちに気があるようなこといってくれるまで居座ろうって頑張ってたの。奇跡的だと思うよ、何度も諦めて帰ろうかと思ったもん」  なるほどと思った。それで俺が「ぶっちゃけ俺でもいいかと思った」といったら「セレン君ならいいよ」と率直に言ってきたのか。紗智枝的にはあの言葉がラストチャンスだと思ったってことかな 「そういえば、急に綺麗になったよね、紗智枝」 「そうかなぁ…。私、自信ないから…。でも、そうかも」 「多分ね、彼氏って一番の美容師だと思うよ。女の子を根本的に綺麗にするから」 「そうかも。うん、そうだね。じゃあセレン君のおかげだ」  紗智枝が寒いというので「帰ろうか」といったが、「もうちょっとここにいたい」という 「じゃあ、俺の服、着なよ」といって上着を貸した。俺は薄い下着1枚で、シャツですらない。「セレン君、寒いでしょ」というが、風邪をひかせるわけにもいかないので「俺はちょうどいいよ。暑いくらいだったから」といった  話していたらそっちの話になった。抱かれたいか聞いたら、そのうちなら良いけど今日は嫌という 「まだ早いし…。それに私、したことないから怖いの」 「怖いんだ。そうだよね」 「だって、その…痛いんでしょ?」 「男が自己中だとね。本当に相手を思ってれば初めてのときはゆっくり慣らすから」といいつつメルのことを思い出していた 「でもね、紗智枝が俺を受け入れたいときでいいよ。無理して捧げなくていいから。それに、紗智枝がその気になっても俺がその日はそういう気になれないってこと、結構あると思うよ。俺は最近そういうことから遠ざかろうとしてるから。紗智枝がそういうこと好きだったら、俺はあまり期待しないほうがいいかもね。それで浮気されてもしょうがないなと思ってる」 「なにそれ、そんなことしないよ…」 「まぁ、未来の話ね」  紗智枝が「ね、寒いよ」と何度もいう。俺が「帰ろうか」といっても帰らない。さっぱり意味が分からないと思っていたら、「ね、私に触ってくれないの?」という。あぁ、そういう意味か、そういやリディアに同じことで怒られたなと思った 「でも、触っていいかどうか迷う」 「今更なにいってるのぉ。全然いやじゃないよ」  でも、恥ずかしいのでかなり迷いながらも、腕を回した。喋っていたら自然と目が合って、お互い黙った。俺がキスしようとしたらゆっくりと目をつぶった。で、キスした。紗智枝はやはりぽーっとしていた  その姿勢で話していたら、紗智枝が「ねぇ、キスして」というので、またした。またぽーっとしているので、「いつもぽーっとしてるけど、あのとき何考えてるの?」と聞いた 「何って…何も考えられるわけないじゃない」 「何も考えてないんだ」 「というか、何も考えられない。あの時間は夢の世界から現実に戻るまでの時間なの」  貸していた服を持つと紗智枝は「ねぇ、匂い嗅いでいい?」という 「村野さんので冷や汗かいたから臭いぞ」 「んー。全然臭くないよ。ってゆうか私、変態っぽいね」  ずっと座っていたので紗智枝が疲れたので立ちたいといった。立って話していたら「抱きしめて」というので、ぎゅっと抱いた 「セレン君、いい匂いがする」 「香水かな」 「つけてるんだ」 「ブルガリ」 「わぁ〜。香水野郎だ」といって笑う 「でも、ここまで来ないと匂わないっていうのはいいね。つけ方を心得てるよね」  抱いてたら姿勢が疲れるというので、ピラ校のドアに押さえつけてぎゅっと抱いた 「落ち着く…しあわせ」 「うん、俺も落ち着く」  そのまま髪の匂いを嗅いでいた。すると右耳があるので、鼻をこすり当てた。そのまま唇で軽く撫でていった。なんでそんなことをしたのか分からないが、していた。紗智枝がピクッと動いた。徐々に徐々にエスカレートさせていって、耳たぶをはむっとはんだ。そのまま耳の側面をゆっくり唇ではむはむして少しずつ撫でていった。するとだんだん紗智枝の呼吸が荒くなってきた。数分間していたら、はぁはぁ言っていたのが、「ん……っん」という小さな喘ぎにだんだん変わってきた。あるとき紗智枝が「ちょ、ちょっと待って!」といったので、素直に止めて顔を離し、微笑んでみせた。すると紗智枝は「ちょ…立てない」といって崩れ落ちた。暗闇なのに分かるほど真っ赤な顔をして、焦点の定まらない目で床を見ていた。口が閉じない状況で、薄く唇を開いていた。暫く真っ赤になりながらぼーっとしていた。キスの数倍もうっとりしていたようだ 「どう?」と聞いたら「なんか…もう、すごくて」という。殆ど言葉になっていない 「嫌だった?」 「い、いまのは嫌だったら思い切り突き飛ばしてるとこだよ…」  そのあと、何もしてないのに「え、いや、ちょっとまって、ちょっとまって」と繰り返していた。気持ちに整理がつかないらしい。暫くぼーっとしてから正気に戻ったようだ 「俺もなんでこんなことしたのか分からない」といったらちょっとムッとした顔になったかと思ったが、それほど気にしてもいないようだった 「自分の気持ちに素直に従ったらいつの間にかしてたんだ」といったら機嫌が直った  紗智枝がぼーっとして、会話がままならない。そんなとき紗智枝の携帯が揺れたらしい 「あ、携帯揺れた」 「お母さんでしょ、でなきゃ」 「うーん…いいや」 「よくないだろ」 「ふふ、ごめんね、お母さん」  そのままぼーっとしてたらまた座って話し出した。暫くいちゃいちゃしていたが時間がヤバイだろうと思って、「紗智枝、もういい加減帰らないと」といったら、紗智枝が驚いて「もう12:15だよ」という。光のあるとこにいってみたら確かにそうなっている。驚いた。というか帰れない。紗智枝は急げば帰れるというが、俺は帰れない 「セレン君、どうするの?」 「いいよ、俺はここで寝てるから」 「ダメだよ、そんなの。ホテルに泊まりなよ」 「高いからいいよ。紗智枝は帰れるんだろ。早く行かなきゃ」  一旦2人とも北1のほうのトイレにいって、出た。紗智枝が12:30に新宿に着けば間に合うというので、「いや、それは無理だろ。全然間に合わないじゃん」といったら「そういうこといわないでぇ。でも、やっぱり無理かなぁ」という 「無理です」 「そっかぁ…」 「というか危険な賭けだね」 「うーん、じゃあいっそのこと2人で泊まったほうがいいのかなぁ」 「そのほうが安全だね、そうしよう。とりあえずお母さんには電話したほうがいいよ」  で、紗智枝は電話した。会話が微妙に分かる。紗智枝が「大丈夫、泊まるだけだから。…しないよ」とかいっている。友達のところへ泊まるとさえ嘘つかないのか。 「なんて言われた?」と聞いたら「大切にしなさいって…」という。俺は紗智枝がさっき今日は嫌といってたのでする気はなかった。それでホテル付き合う男ってバカだよなと思いながらもふつうに行った  ブクロへ向かっていたが、紗智枝が怖いというので目白にした。こないだ酒を買ったサンクスの奥にあるSEEDSというホテルだ。紗智枝が「綺麗なところじゃないと怖くて安心できない」というのでそこにした  入ったら受付のおばちゃんが1時からサービスタイムで12000が8900になるので待ったらどうかというので、「あ、そうですか。じゃあそうします。わざわざどうも」と話していたら紗智枝が「本当、誰にでも優しいんだね」という。優しいというか、礼儀だろうと思った  外で待って、クリスマスツリーを見ていた。すると男がいた。次に女が小走りで来たのでカップルかと思ったら女は領収書とか財布とかを持っていた。そして丁寧語で男に喋りかけていた。男に金を請求して、男はいくらと聞きながら払っていた。そのまま去っていった。紗智枝は何も言わなかった 「あのさ、今のって絶対売春だよな…」 「…うん」 「いや…むっちゃあの男に見せびらかしてやろうと思ったんだけど」 「やめてよ、こわい」  部屋が210だというのでキーを貰ってエレベーターで行った  中に入った。まぁ、ふつうのホテル。高いからカラオケがあった。風呂は広い。2人で入るためにできてるんだろうな。紗智枝は全部新鮮という感じだった。自販機があるので紗智枝に言ったら割とサラッと「コンドームじゃない?」という。しかし見たらバイブ各種だったので、「あ、見ないほうがいいよ」といっておいた  俺は風呂に入ってくるといって入った。紗智枝が一緒に入ろうかというので、沈黙した。10秒ほど黙っていたら「冗談だよ」といって笑っていた  紗智枝は5:30起きだし、俺も2時間しか寝てないので眠かった。風呂から出て、紗智枝も入った。どうやってシャワー使うのと聞かれたので教えた  格闘技をみたいというので少し型を見せたら、突きが速すぎるといって驚いていた 「それに、目つきが全然違う。怖いよ…」 「前よりはずっと優しいけど。それに、スピードも遅くなってるよ」 「先週の金曜日に見せられなくてよかった。きっと怖くて引いてたよ。でも、みせてくれてありがとうね」  風呂から出てぼーっとしていたら紗智枝が「さっきいちゃいちゃしてたよね」という 「うん」 「うん…」 「ん?何?」 「ううん、なんでもない」というので、前にリディアと同じ会話をしたなと思い出した。あのときはそのまま会話を終わらせて怒られたから、今回は「続きする?」と聞いたら、「うん、しよしよ」と積極的に言ってきた  俺はとりあえず、携帯用のコンタクト液を買いにコンビニに行った。紗智枝は一人でいるのを怖がって、携帯を持っていってといった  で、ねっころがって撫でたりキスしたりしながら始めていった。耳とか首筋とか頭とか、まぁ色々優しく。処女なんで1、2時間かけて弄っていった。いうまでもなくメルとのことを思い出した。紗智枝は照れ笑いをしながら「ちょっと待ってぇ、待ってぇ」と繰り返していたが、事前に「私って、嫌じゃないのに嫌っていうんだ」といっていたので言葉でからかいながら続けていった  はじめは日本語で恥らっていたが、だんだん言葉が言葉でなくなってきて、次第に喘ぎ声に変わっていった。あのちょっとずつ喘ぎになっていくところが可愛い  胸はあまり感じないといっていたとおり、乳首が硬くならなかったけど、俺のを触らせたときだけは凄い勢いで固くなっていた。相当興奮していたようだ。不思議だ。自分がされるほうより、するほうが緊張するのか  まぁ、この辺は内容が濃いので割愛するが、紗智枝は非常に満足していた  俺はいつもどおり周辺部をゆっくり大切に攻め、やらしい言葉を耳元で囁いて抽象的に盛り上げていった。感じてる?と聞いたら「うん、感じる」という 「なんか、私、とりこになりそう。今度は自分から誘いそうで怖い。私が甘えたら重くない?うざったくない?」 「全然。可愛いよ」  指を紗智枝の口の中に入れて遊んだ。「はい、ここはなんですか〜。は〜い、軟口蓋でーす」とかいったら紗智枝が笑い出して、「国際音声字母だー」といっていた 「こんな授業だったらすぐ覚えちゃうね」 「俺じゃなかったらセクハラだけどな…」 「紗智枝、水飲む?」 「うん」  俺は水を含んで上になって紗智枝にキスして、口移しで少しずつ入れていった。コクコク飲んでいく様がかわいらしい。口を離したらぷはぁという。「こういう飲み方はどう?」といったら「すごい…いい」といっていた 「怖かった?」と聞いたら「全然。大丈夫だったよ。少しも怖くなかった。すごい安心してた」という 「あのね。今まで生きてて自分の期待よりすごいことなんてなかったの。セレン君、期待してた以上に優しかった…本当に驚いた」 「そっか。紗智枝を傷つけないですんでよかったよ」 「うん、私もうセレン君としか考えられないよ…。すごく大切にされてるってこと、伝わってきたよ。だから嬉しかった。幸せだった。ロマンチックな夢を見せてもらったよ」  紗智枝の感想は「いい匂いで、優しくて、気持ちよくて、しつこい!」だったので、笑った。「しつこいかぁ」といったら「でも、いい」といった  そういえば途中で「あのね、偶に呼び捨てにしていい?」と聞かれた 「いいよ」 「…セレン」 「…紗智枝」といってキスした  間違えて前の女のことを言ってしまったが、紗智枝はサッパリ怒らなかった 「怒らないの?」 「セレン君のことだから、前の女はどうでもいいよ。私は私が優しくされたことが何よりも嬉しいの」  紗智枝は俺の背中を撫でながら「なんて綺麗な体なの…」といっていた。女に綺麗といわれてもと思ったが、リディアやセフレたちも同じことを言っていたなと思いだした  紗智枝は興奮して喘ぐほどに強くぎゅっとしがみついてきた。「「よりよりて」の和歌、もう俺のものだね」といったら、「そうだね、元は他の人に向けてたのに」という。「俺が奪ったわけだ」といったら「うん」という  紗智枝が俺の唇に指を這わせながらまじまじと見てきた、不思議そうに 「これがね、やわらかいのぉ。これなんだよね、これ。どうしてこんなに柔らかいの?」 「紗智枝のが柔らかいよ」 「んふふ…」  で、紗智枝が一旦トイレに行くというので、服を着ようとしたら「まだ着ないで。終わりにしないで」という。結局終わった頃には5時ごろさ  紗智枝は「これってすごい体力使うね。ごめんね、私、体力ないから」といっていた。でも、紗智枝は女だから割と動かなかったと思う。あ、声とか出してたし、小刻みに動いてたもんな。逆に疲れたってのは誉め言葉か。まぁ、向こう初めてだしな。俺は体力配分考えながらやってるからいいけど  終わってから暫くエロトークをしていた。紗智枝は結構言う 「真面目な娘のほうがベッドでは凄いって聞くけど、本当だね」 「そうなんだ。うん、そうかも。私、結構えっちだよ」  で、一人えっちはいつからしてたかというようなことを事細かに聞いていった。恥ずかしがりながら話してくれた。中学のときなんとなくパンツの上から触って、終わったあとからそういうことをしたんだと気付いたそうだ。相手は誰と聞いた 「私の小説のキャラクター。でもね、そういうとき、自分はヒロインになりきってるの。だから、紗智枝が抱かれたのは夢でも現実でも今日が初めてだよ」 「そうなんだ。最後にしたのはいつなの?」 「んー、結構前だよ。先月とかもっと前」 「5、6月か」 「うん…。でもね、実を言うとセレン君、ちょっと登場してたよ」 「は?だって6月ってそんなに親しかったっけ?」 「あ…ううん。6月の後半」 「はは、じゃあ「結構前」じゃないじゃん」 「あー、うん…」と恥らうので、ビミョーに嘘ついてるなと思った 「どこでするの?風呂?」 「ううん、部屋」 「指とか入れるの?」 「うん、でも、ちょっとだよ…」 「パンツ脱いでするわけでしょ。汚れない?」 「あまり濡れないから…。それにパンツね、綿だから吸ってくれるし――って私、何言ってるんだろ…」 「お母さんとか来たらまずいよね」 「大丈夫。ふとんの中で隠れてしてるもん」 「結局、お母さんに嘘ついちゃったんじゃない?泊まるだけなんて」と聞いたら「えへへ、ごめんね、お母さん」といっていた 「でもね、絶対ばれる。セレン君の匂い、ついてるもん」 「あぁ、そういえば俺にもついてる。バレバレだね」 「でもさ、つい一ヶ月前なんてただの他人だったのにね。お互いの名前と顔ぐらいしか分からなかったのに。こうなっちまうなんてなぁ、不思議だよね。あの同級生の竪谷さんがって思うと意外でしょうがない。一月前の俺に話したらさぞや驚くだろうな」 「うーん、でもね、私は今こうしていることがとても自然なの。全然違和感がない。すごーく自然なの。こうしていることが当たり前のように」  結局寝たんだが、1時間もせずに起きた 「紗智枝」といったら向こうも起きていた。眠いのに眠れないらしい。で、結局帰って寝るということにした。出たのは7時前  紗智枝は俺の手をとって歩いていた 「朝帰りだね」といっていた。目白で学習院の門が見えたときに、「全然なつかしくなーい」といって笑っていた。最後にキスして別れた。俺は歩いてブクロまでいった。ちょうど俺がいったときに南口の門が開いた。神のタイミングで。電車でぼーっとしながらもメールを打った  帰った瞬間パルサーが二階から来た。一瞬で悟られ、「朝帰りかよ」といわれた  寝て、3時に起きて塾へ。10時ごろに紗智枝からメールが来たと同時にまた裕子からメールが来た。パルサーが横にいて爆笑しだした。はぁ…と思いながらまた2人にメールを返した