hac
[言語]hの文字
[レベル]
14:制:使徒
[語法][文化]
第13文字目の幻字。
ハ行に当たる摩擦音。口語で[h]は音と音の間で消失することがある。例えばen hartの場合はエンナルトのように聞こえることがある。消失してもしなくても特にアルバザード人は意識していない。単語単体で発音するときは[h]は消えない。
音節末に来るとドイツ語のichのヒ、achのハの音のように、元の位置より前寄りの摩擦音に変わる。これはソノリティを上げるためである。ただし、renteはこれを音が擦れて汚いと思うため、前寄りの摩擦音を使わずに、はっと息を漏らす。聞こえは弱いが、色っぽい。

・音節末のhは制アルカ以前にも[x]だった可能性が

音節末のhは制アルカで[x]などの音声になるように定められた。しかしその設定が突如何もないところから出てくるというのも考えにくいので、その前段階があったのではないかと思われる。そのことがずっと気になっていた。
ところでリディアはラーメンのことを「ラッハメン」という癖がセレンが18歳前後だったときにあった。なぜそんな変な言い方をするのだろう、ラーメンと発音できないわけじゃないのに――と思っていた。
24年になってある日突然そのふたつが結びついた。リディアはラーメンという日本語を覚えたとき、教科書か何かで覚えたのではないだろうか。そのときカタカナのルビにlahmenと書いてあったのではないだろうか。このhは長音を示すが、もし後の制アルカのように[x]の音だとリディアが考えたら?そう、「ラッハメン」になるではないか!長年の謎だったラッハメンの謎がついに解けてセレンは「あぁ!!!」と驚いた。
しかし、そうなると音節末のhの字を[x]で解釈することが古アルカにはあったということになる。古アルカは表意文字だったので音にそこまで敏感ではなく、また音節末のhも頻度が低いので、hを[x]で解釈するということは注目されていなかった。当時のセレンが制アルカで音節末のhを[x]にしたのは古アルカの音声の使用実態を見た上でのことだろうから、潜在的には[x]の音声が古アルカで使われていたこともセレンは知っていて、特にそれが音節末のhに現れやすいことに気付いていたのではないだろうか。
ラッハメンの謎は幼馴染のフゥシカや仲間、後に家族にも話したことがあるが、誰も分からなかった。リディア本人も「ラッハメンと覚えてしまったから」としか言わず原因を究明しなかった。今になってようやく分かって感激している。
【用例】
hac sakean{foil} 字の若い方、字の早い方。tとkならtのこと。
hac xikean{xeil} 字の遅い方

hac(2)
[名詞]文字
[数学]文字、代数。定数や変数のこと。
[接尾辞]書体名を指す。
[類義語]hacm、harma
[レベル]
meltia 100:bert;e
13:制:har:hacma(使徒、幻字)
[語法]
表意幻字(幼字):harma
アルハノン(塔字):alhanon
ベルト幼字:bectharma
響字:forma
節字:konton
京字:yula
極字:sanla
京極:mana
メテ幼字:meteharma
竜字:abram
理字:tiaram
表音幻字(幻字):hacm
[文化]
<文字と紙の歴史>

meltia 100にベルトが幼字を作った。これが最初の文字であり、表意文字である。
ベルトは光の魔法xanteで空中に字を書いたため、曲線と直線を自由に組み合わせることができた。その知識はエルトとサールに受け継がれ、ユーマの一族へも伝えられた。

紙を最初に発明したのは悪魔ベルトである。
meltia 256、ベルトは忘れっぽいサティのために動物の皮に棒で文字を書いた。なお、最初のインクはヴァルク海で取れたイカの墨である。
この皮が悪魔の中で人気になり、もっと薄く大量に作れるものはないかと模索した結果、meltia 389にヴァルテが植物の繊維を用いた紙を考案。最初は麻を使っていた。
meltia 423にヴァルテがペンを考案。
麻の紙は悪魔から神に伝わり、神からユーマに伝わった。従ってアズゲルでは既に紙が存在した。しかし技術よりも製品ばかりが伝播しており、どちらかというと神から紙を分けてもらっていた。
tmでアルファエル川流域でパピルスを使った粗悪な紙が作られ、ユーマの一族による紙ができる。

ベルトは本をも発明し、神に伝えた。
例えば賢者ユルグは本から生まれた九十九神である。

木材による紙はzgで開発された。
インクは植物を用いたものがナユによって作られ、ペンも多様化した。

筆記具によって字のデザインは異なる。xanteは石に刻まないので自由に直線だけでなく曲線も書ける。そのため幼字は直線と曲線を区別できた。これを利用してエリア(水)に対するエーホ(氷)のような字の違いが生まれた。

<書体の歴史>

初めて書体が登場したのはtmである。マレア神によって幼字の書体がいくつか作られた。
zgでナユはマレアに教えを請うて書体を学び、新しく幼字と響字の書体を作った。
後にセレンはこれらを元に幻字の書体を増やしていく。
smでは響字が各国で採用され、sm中に竜字や理字の筆記体ができる。ただしカッパープレートはrdを待つ。

rdでは幻字ができる。新生になるとセレンは正式な書体としてtapを作った。ところが当時はボールペンがなくインクを使っていたので、一文字ごとにペン先を離すtapは使いづらかった。
幻字は表音文字なので、数文字がまとまって初めてひとつの単語になる。なので、単語ごとにまとめて書きたいという要望が出る。
そこで幻字にも竜字同様繋げ字が開発された。しかしセレンのものは質が悪く、ミルフが改良してhailenを作った。一方セレンはhailenに感動し、書体に実用以上の意味を見出していく。
その後セレンは芸術としての書体を求めた。当時セレンは通常のペンを用いていた。tapは線の太さが均一だが、hailenは線の太さに強弱があった。hailenは文字のある部分は流し、ある部分は止めるという書き方をするため、ゆっくり書く部分はインクが多く溜まって線が太くなる。
セレンはhailenの線の強弱を見て、文字の線には太いものと細いものがあるとメリハリがつくと考えた。そこでマレア神がかつて遊びで作った平ペンを使い、平ペンを45度に傾けることで、線の強弱をつけることに成功した。

地球の場合、石版に刻む刀が後の平ペンを生むので、地球とアトラスの歴史はまるで逆である。アトラスの場合、マレアが書体のバリエーションを豊富にするために遊びで作った平ペンを用いて、丸ペンで作った書体の後に平ペンを使った書体を作っている。
ところで日本でカリグラフィーペンを買うとイタリックなどを書くための平ペンを渡されるが、カリグラフィーは本来西洋書道のことであるから、カッパープレートなども含む。そしてカッパープレートは平ペンでは書けないので、ああいった平ペンをカリグラフィーペンと命名するのは適切でない。アルカの場合、書道としてのカリグラフィーと、イタリックなどを書くための平ペンはまるで別の単語である。
リュウはこのころナユと魔法を使わない活版印刷を作っており、銅版に手で刻み込む技術を考えていた。そこでセレンらは銅版に刻みやすい線の細いカッパープレート体を考案した。その後、セレンはカッパープレートを最も華やかな書体へと発展させていき、axet体を作った。
vlまでにセレンの書体を改良した書体が無数に出た。それはal以降でも使われている。

<字の体系>

漢字に草書や行書などがあるように、アルカにも様々な書体がある。似たような書体をまとめたものを字体(hacpit)という。書体は具体的なフォント名であり、ark, hailenなどはすべてこれに当たる。arkとlutiaとhailenは同じark字体に含まれる別々の書体である。
21年現在、公式の書体は独立体でtap、連結体でaxetである。

<文字の歴史>

・幼字

100mtにベルトが表意文字の幼字を考案。神、悪魔、ユーマ、死神へ伝播。
tmは言語と文字にとって歴史上ほぼ唯一の蜜月期で、少ない人口と優れた下記elxeltにより長期にわたって安定していた。
444mtにベルトがエルシェルトを考案し、各地に設置。エルシェルトのおかげで神々の連絡はよく、通信技術の発達した現代同様、互いに離れて暮らしても言語と文字は意思疎通ができる範囲で緩やかに変化していた。神々に寿命がなく世代交代がないことも言語の変化を緩めていた。

・ベルト幼字(bectharma)(2129)

cvでエルシェルトが徐々に破壊される。これにともない、徐々に各国の言語と文字が独自の変化を始める。もともとエルシェルトがあっても長い間で少しずつ互いの言語は独自の変化をしていたが、エルシェルトの破壊とユーマの一族の寿命減により加速した。
大方は幼字を使っていたが、文字の意味やデザインが異なったりといった齟齬が生じていた。これはエルト・サール間にもいえることであった。このときは戦争中なので、スパイや翻訳者や前線の兵士以外にとっては取り立てて齟齬があっても問題にならなかった。戦時中の日本が敵性語として英語を嫌ったのと同様である。

zgになると戦争が終わり、エルト・サール間に棲み分け前提ではあるものの対話の姿勢が現れる。2010年現在における朝鮮半島のような状態に近い。
対話が始まると当然齟齬が問題になってくる。さらに神人貿易への依存も増えるため、人間との間の齟齬も問題になる。かといって何千万ものアテンが絡む問題であるため、今日齟齬をなくそうと思ってすぐ変わるものでもない。特にzgはじめはまだ人間は部族単位で暮らしており、彼らは神なき国の王になろうと躍起になっているころで、リーダーがいない。
新しい文字を伝播するには人間側にも強いリーダーが必要である。アトラスに直接介入できなくなった神々では伝導者としては不十分である。ベルトやユルグらはそのことを理解していた。

zgが進むにつれ齟齬は大きくなり、問題は以前よりも意識されるようになる。
2120にveldian帝国ができる。続いて2125にsilezian帝国ができると世界は東西に分かれ、一触触発の冷戦状態へ突入する。いわゆる千年の冷戦である。
この時期は逆説的な平和が訪れており、かつシフェランとマレティスという巨星が存在したため、文字改革を行うにはzgの中でも最もタイミングのよい時期であった。
そこで神々は人間のみならずベルトやルノらも加えて会談を開いた。これをベルト会談(bectata)という。
この時既に各言語間は音声面ではそこそこの開きが生じていたものの、文字面ではそこまでの開きがなかった。地球でも通常言語はこうなる。つまり音声の変化のほうが早い。
日本人が中国に行って喋れはしないが筆談はできるのと同じで、表意文字である幼字は筆談に強い。しかし中国語で「走」が「歩く」という意味になっているのと同じような齟齬が幼字にも存在した。
そこで彼らは統一の字を企画した。ベルトが主幹となり、デザインや意味の統廃合を行い、2129に400字(ベルト幼字)にまとめた。細かい違いしかないのにたくさんの文字があると不便なため、統合をして文字を減らすなどといった手法がふんだんに採られた。こうしたデザイン等の統廃合は地球でも秦の始皇帝が同じようなことをしている。

・響字(2129)→lim

新しくできた幼字セットは音声面では各国語の発音で読まれる。同じ「火」でも「カ」だったり「フオ」だったりというのと同じである。
そこでこの新しい文字セットの各文字をどのように読めばよいかという問題が生じる。現場では字典を作るわけだが、字の横に各国語の読みを書く必要がある。
漢字で例えると「火」と「炎」は似ているから「火」だけに統一したとしよう。このとき新しい「火」を「カ」と読むか「エン」と読むかあるいは第三の読みをするか分からない。一人でやるならまだしもこういう作業をベルト監修の下各国の研究者が混じってやっていたわけで、「この文字を何と読むか」を記しておくことは必須であった。
各国にしてみれば文字の読みは自分の言語分しか必要ないから自分の言語にない音素を表す文字はいらない。しかし各国の研究者が入り混じって研究している状況では誰もがどうせ作るなら各言語共通に使える表音文字のほうが便利だということに気付く。
そこでベルトはきちんと文字の音価が分かるよう、例えばdiaの幼字で[d]という音を示すようにし、表音文字を作った。これを響字といい、アトラス初の表音文字である。響字は参加したすべての言語のすべての音素を記せる必要があったため種類が多く、国際的に使えるものであった。

なお、響字は50字で、rf,lsはこのうち29を使用する。
響字について詳しくはlimを。

・極字(1039000mt頃)

カルセールのヴェマを本拠地とするサールの勢力が弱くなったことで、周辺諸国へのヴェマの影響力が低下する。この結果、東洋諸国特にヴェマから離れた地域において独自の文化が育つ土壌ができる。特に大陸の東端で防衛に適したハーディアンでは人の往来も少ないこともあり、閉鎖的な環境の中で独自の文化が華やいでいった。ハーディアンの最初の国風文化である。
ハーディアンは神との繋がりが弱く、神の筆記用具がヴェマ以上に手に入らなかった。人々は甲骨などに文字を刻んでいた。線種の多い幼字は刻むのには適しておらず(甲骨などに星型や三角や丸を器用に刻むのは難しい)、幼字の形は徐々にハーディアン建国以降簡略化され、線形化していった。
このころまでに既に文字は線形化され、直線を主とする字体ができていった。線形化に併行して幼字にはない文字が多く作られ、独自の文字を形成するに至った。これを極字という。

・節字(2133)

響字はrf,ls,szのような複雑な音節構造を持った言語には便利だが、ハーディアン語のようなほぼCVからなる音節構造を持つ言語には違和感がある。ハーディアン人はkaはkaでひとつの音と考えているので、これひとつに一字当てたい。日本語のひらがなと同じだ。日本人は「か」を「か」だと思っていて、子供のころローマ字を習って初めて「か」が子音kと母音aの複合だと感じるようになる。それと同じでハーディアン人にとってkaはkaで一音に感じられるため、この一音に一字を当てたい。
結果ハーディアンでは響字は受け入れられなかったが表音文字というコンセプト自体は受け入れられ、節字という音節文字が開発された。ただ響字のアンチテーゼとしてzgで作られたため、コンセプトは響字と同じで、ひとつの幼字をひとつの音節文字として用いたものである。
節字はルビのように極字の音を示すのに用いたため、現在のハングルのように表意文字に置き換わるものではなかった。

・京字(3658)

シフェランは同盟の見返りとしてロロスをアルティア人の支配地とさせる。その代わり自分に有利な関税をかけた。この結果ハーディアン、特にアルティアの国力は高まり、極字開発に次ぐ国風文化の兆しを見せる。
この時期に豊かな国力を背景に国風文化を誇る風潮が高まり、文学などの余剰な学問にも注力する余裕が生まれる。ルビとして用いられていた節字の崩しはこのときまでに幾種も存在したが、政府は学者の協力の下、これらを集めて崩し字の統一規格を創ることに成功した。この規格を学者らが都で定めたことから京字という。政府は覚えるのが簡単な京字を使って文を書くよう推奨したものの、極字のほうが見てすぐ意味が取れることからその計画は失敗に終わった。しかし完全に失敗だったわけではなく、このことがきっかけとなり、機能語は京字で記すようになった。

・京極

京字が機能語を表し、極字が内容語を表すようになった結果、これらのハーディアン文字をまとめて京極と呼ぶようになった。
→manaに詳細。

・塔字(55000前)

遡ってカルセールではtmで独自の表音文字alhanon(塔字)ができていた。
カルセール人は神代からすでに表意文字に見切りをつけて表音文字を開発していた。その理由は魔法陣である。魔法陣は呪文を地面に書いて行う魔法であるが、何百とある表意幻字を覚えて使いこなすには一定の教育が必要である。
そこでカルセールの王ilhanoiが塔字を開発し、アルハノン用の呪文見本も作り、学のない国民でも魔法陣を使えるようにした。そのためカルセールでは幼字からの脱却が早かった。アルハノンは魔法陣の技術とともに神代でメディアンやスカルディアにも浸透した。

・メテ幼字(meteharma)(7944)

kkでメテが神とともに悪魔を倒したとき、彼は人間社会の頂点にいた。この中央集権および神との繋がりを活かし、メテはzg以降ふたたび言語間で齟齬が生じてきていた幼字の再制定に乗り出す。
メテは新字を追加したり統廃合をし、444の幼字を制定した。これをメテ幼字といい、このときの神々との会談をメテ会談(meteata)という。主幹はメテとベルトである。

・444

この数はどこから来ているのか。4が古くから聖数(ratalx)なので444が並ぶことは理解できる。問題はなぜ1000や2000ではないのか。なぜ500程度なのかということだ。
もとはといえば幼字は古アルカの幻字から来ている。『アルカ』p54によると古アルカの幻字の総数は2065である。常用漢字が左記執筆時で1945であるから、2065をそのまま流用すれば作業が楽だ。2000を500にするにはかなりの選定・編集作業がいる。なぜこれをわざわざ500にするのか。

最大の理由は古アルカがしょせん子供の作ったものだからである。カルディアで神が作ったとするには無理があるからだ。また、アポステリオリ性を完全に排他できているか怪しい。それで選定する必要がある。
大々的に減らすのは、表意文字の世界スタンダードを配慮してのことでもある。漢字しか知らない日本人からすれば常用漢字が当然のものに見えるが、世界の表意文字はたいてい3桁である。漢字は俗に5万あるといわれるが、むしろ漢字だけが群を抜いて多い。世の中の標準はもっと少ない。
字が多いということはそれだけ学習効率が悪い。また5万のうちほとんどはパーツの組み合わせで、単語でいうなら合成である。単純語に相当する文字だけ抜きだすと世界標準に近付く。

だが常用漢字を2000使っている民族からすれば、500では少なく感じるのも事実だ。
そこで接字という装飾を付ける。アルカにはalの付く語が多い。またlimlet, kalmiyuでできている語が相当ある。
そこでal系の字には基本となる字に○を付ける。ベースとなる文字は444しかないが、○を使うことで実質的な数を規則的に増やすことができる。同様に.lや.kには線を付ける。反対語には古janを示す×を付ける――などという要領で接字を付けてヴァリアントを増やしていく。

接字3つでも444*4になるので2000弱となり、常用漢字に匹敵する。
むろんすべての字に接字を付けるわけではない。付けても合計1000程度だろう。

なお合理化大作戦を競っているわけではない点に注意。接字をもっと増やせばベースはもっと少なくなる。50*50でも2500だ。接字とベースが正方形になるように組めば必要な数は最も少なく、組み合わせの数は最も多くなる。
この手の過合理は子供の好むところで、私もずいぶん試した。しかしこの手のもので人間がいざ実用しようとして使いやすいと感じたものはない。今までに何度もこういったものを年単位で人体実験しては結局覚えづらく使いやすい自然言語的な体系に回帰していった。

2000を500程度に統廃合するというのは例えば漢字で言うなら「崎」と「嵜」、「島」と「嶋」などをまとめて減らしていくことに相当する。
古でeriaは「3」のような字形で、水を意味する。波紋の象形である。線をカクカクさせて直線にするとeeho(氷)になる。水が硬くなって氷というわけだ。古でもそうだしベルト幼字以前もそうだった。
ここは合理化できる。eriaに線を引いてeehoとする。eriaというベースに線という接字を付けてヴァリアントを作るというわけだ。
また、直線と曲線を区別すると楷書と草書のような書体のバリエーションが減ってしまう。そういう意味でも古にあった直線と曲線の区別は廃棄したほうがよい。

古幻字は子供の作ったものなので余剰が多い。合理化しすぎるのも問題だが、ある程度の合理化ならむしろ望ましい。人間でいうなら、肥満は不健康だが痩せすぎも不健康という感じだ。


ところでzgでも幻字は2000程度はあったと思われる。異体字が相当数あるだろうことが見込まれるからだ。あるいはもっとあったかもしれない。現実のほうも2000行ったのだから、そのくらいはアトラスでも余裕で行くだろう。
いずれにせよベルトらは統廃合を行い、500程度までスリム化した。統廃合の目的のひとつは字数を減らして学習効率を高めることだ。しかし減らしすぎると運用効率が悪くなる。
セレンが思うに表意文字は500~1000程度で学習と運用のバランスが取れるのではないか。なら数をいったん500にして学習効率を最大限範囲内で高めた上で、接字を使ってそれを1000程度に増やせば運用効率もキープできる――と考えたわけだ。
これは総合的に合理的な手法で、賢いベルトのことだから幼字を保存するという条件を満たしつつ学習と運用を取ってこの道を選んだことだろう。


・幼字の失墜

7944にメテ幼字が制定されたのも束の間、メテがソーンに暗殺され、さらに後釜についたアルシェまでソーンに敗れるや一転、メテを象徴するメテ幼字の権威は失墜した。
ソーンはアルハノンの文化圏出身者であったため、メテ幼字を廃してアルハノンを支配地の効用文字に制定(8009)。レスティルに初めて表音文字が公的に入った。
ソーンが暗殺されアルバが王位につくと、アルバはアルハノンを公用文字から除外。ところが彼自身アルハノンが公用文字だったころの生き証人で、表音文字の便利さを肌で知っている世代だった。
それまではルビとして響字を使うのみだったレスティル(この時点でアルバザード)だったが、ここで表意の幼字に戻すより表音を使ったほうが便利でかつ国民の適応も早いのではないかと考えた。そこでアルバは幼字を廃し、響字だけで記すよう定めた(imul 5)

一方ルティアはすでにこのとき伝統を重んじる国になっていたため、7969に採用していたメテ幼字しか使わず、表意が使われ続けた。
メテとともに幼字を制定した神もむろん同様である(7946)
幼字はその後もデザイン、看板、記号、時計、カレンダー、数学記号や物理の定数といった科学などにおいて使われ続け、現在でも生き残っている。

・響字の普及

sm前期になるとアルティアがルティアに侵攻。一時ルティアは支配される。その後首都を奪還するも西部は長きにわたって取り戻せずにいた。
この征服時代に節字が入り、アルティア人に牛耳られた王宮は節字を公用文字にしようとしたが、音節構造がアルティア語と違いすぎ表記があまりに不便なため見送られた。
結果節字はルティアではオノマトペの表記などに用いられることになる。
アルティア人は節字を作ってから幼字を使っていなかったため、ルティア人の使う444もある文字を受け入れることはなかった。この時点ではアルティア人が支配者であるため、当然彼らは自分たちにルティア人を合わせようとした。かといって節字はルティア語に合わず、ルティア人にアルティア語をあまねく喋らせるのも現実的でない。
そこで同じ表音文字の響字を取り入れ、折り合いをつけた。これならアルティア語もルティア語も同じ文字で記せて行政上便利である。結果ルティア語でも響字を採用することとなった。
ルティアの役人はアルティア人とルティア人で構成されるため、彼らはともに響字で記した。節字でルティア語を書くのはきつく、かといって幼字を使う気にもならないため、これが支配者にとっても最も合理的な選択であった。なおアルティア本国ではむろん節字が使われ続けた。

sm中期になると神も響字の利便性から徐々に幼字の使用を減らしていった。背景には発達するアルバザードの魔法学が作る新語をいちいち幼字に訳すのが煩雑という思いがあり、まずrfにとっての外来語が響字のまま入り、そのうちほかの語も響字で書かれるようになっていった。
また、ベルトやルノらもこの動きに合わせた。

・響字の崩壊

響字は大国間で通用する共通の文字としては便利だが、幼字が元になっているのでしばしば画数が多いか一画が長い。作った時はベルトが取りまとめて世界共通の文字をという流れだったが、会談が終わってしまえば各民族がそれぞれの土地で響字を使い続けるわけだから、当然好き勝手に各国ごとに崩れていくことになる。例えば日本人が漢字からひらがなを作ったように、変化しないほうが世界的には合理的でも、その土地で生きている人間からすれば自分が便利なほうが良いから当然変えるわけである。

もし異国が別の崩し文字を使っていてもそちらに合わせるかといえば、よほど力の差がないかぎり合わせるわけがない。むろんそれぞれの国が好き勝手に崩すと共通性が損なわれるということは皆も感じている。かといって、では自分が相手に合わせるかといえば、そんなお人好しはいない。皆周りの国がこちらに合わせればいいと考える。
例えばひらがなとハングルがあると分かりにくいからひとつの表音文字にしようねと誰かが言い出したとして、それ自体は日韓は確かに便利だとは感じるかもしれない。だが日本人は当然ハングルに合わせる気などないし、韓国もまた譲る気がないだろう。それと同じことである。

・竜字

そこでsm後期でアルバザードで起こった文字が竜字である。これは響字の下位概念とも子ともいえる存在で、響字を崩したものである。アルバザード語にある音韻しか文字を持たないのが特徴である。

竜字は29で、詳しくはlimを。

・理字

同じくsmでliize姫が取りまとめたものが理字である。宮廷ではひとつの文字に対し複数の崩しデザインが存在しており、リーゼ姫はそれらをまとめて文字セットを作った。こちらもやはりルティア語にある音韻のみを文字として持つ。
以下では響字というとアルバザードでは竜字、ルティアでは理字を指す。

理字は30で、詳しくはlimを。

・ペンと筆

竜字と理字ができたころ、アルバザードはペン文化でルティアは筆文化であった。
ペンと筆は持ち方から線の質まで異なる。ボールペンはインクが切れないので気付きにくいが、インクとペンで書くと、ペンは画数の多い字が書きにくいことに気付く。それどころか複数の文字をひとつにつないでサラサラと書いたほうが書きやすい。
対して筆はペンよりスッスッと書くのが容易で、画数が多くても比較的書きやすい。線に太さも付けやすい。
この違いは竜字と理字の崩しのデザインの差に影響を与えた。

竜字も理字も響字から崩れたものだが、各国の国民が勝手に崩れさせていった結果崩しのパターンがいくつもできてしまったため国がまとめたという事情があるので、制定された崩し方は国ごとに異なることになる。作る側としては誠に面倒だが。

・デザインと国民性

竜字はペンで書きやすいようもともと筆記体風な崩しになっている。元の響字のデザインを根本から変えて、自分たちに書きやすいよう変えている。自分たちの合理性に合わせて周りを変えようとするアルバザード人の強い国民性が出ている。

一方理字は元の響字の字形から一部を切り取るというタイプの省略をしている。保守的で大人しい彼らは元のデザインに手を加える気がない。かといって字形が長すぎるので省略もしたい。そこで一部を切り取るという手法に到った。仮名でいうとカタカナに相当する。

・神々の響字

なお神々は世代交代をしないため、慣れた響字に固執した。彼らにとっては画数云々よりも慣れのほうが重要であった。それはそうだろう。画数の多いのが嫌なら最初の響字の時点で崩している。あくまで幼字の黄金期を生きた寿命の長い生物の価値観だ。

・幻字→lim

smでアルバザードやルティアから神々に至るまで公用文字として広く採用された響字。しかしその音価は時代とともに変わる。これが表音文字の欠点である。
例えば英語でも発音上は大母音推移が起こっても文字は据え置きだし、同じsでもsadではサ行音だが独Steinではシャ行音である。sm_rdは現代の時間換算でも800年あるため、この間に言語ごとに地球の言葉と同じく文字と音のずれが起きている。
rdでアルシェが新しい使徒を迎えると、まず相手が同じ文字を使えるかという心配があり、同じ竜字が使えてもはたして読みが同じかという心配が常に付きまとった。さらに場合によっては文字が崩れてデザインが変わっているケースすらあり、混沌としていた。

アトラスではアポステリオリ人工言語である古アルカがピジン的に作られていく過程でアルシェは『制定語彙』などを作成。ほかにセレンは『赤アンクノット』などを作成。制定語彙は響字で書かれたが、赤アンクノットはセレンの趣向で節字で書かれた。当時セレンが私的に節字を使用していたことと、赤アンクノットがフルミネアが企画してセレンが作った私物だったことにより、個人の趣向が通っていた。

1601にセレンが制アルカを作成しだす。このときアルカ用に幻字を作り、乱立していた音をまとめた。それまでは各言語で使われる多様な音を使っており、非常に多くの響字を用いていた。しかも文字の読みも言語によってまちまちだったため、幻字で統一したわけである。
制定語彙ほかはリーザが保護の目的でルティア王宮の金庫に保管していたため、おいそれとは閲覧できないようになっていた。ただし赤アンクノットは私物なため、管理をまぬがれた。このためセレンは制アルカと新生アルカの制作途中で赤アンクノットを参照するしかないことがたびたびあった。
しかし赤アンクノットは節字で、節字は響字ほど音が正確ではない。そのため制・新生は響字からすればあやまった音で作られた単語がある。使徒は制定語彙の暗記が必須だったが、すべて忘れないというのは現実的に不可能なため、このようなことが起きた。

・IPA(feeteda)

rdではセレンが1609に響字に代わる包括的な表音文字(IPAに相当)を考案した→lim

・幻字の普及

幻字はアルカの普及とともに広まった。文字と言語なら文字のほうが先に普及する。日本でもハングルをよく見かけるが、韓国語ができる人はまだ少ない。例えばセレンもハングルは読めるが韓国語は喋れない。それと同じで、幻字もアルカより早く広まった。
rdで幻字は多くの国に認知されていた。ただ公用文字にはなっていない。rdではアルバザードでのみ公用文字とされた。alではルティア等多くの国が公用文字のひとつとしている。

ルティアではrdに幻字が入り、alで公用文字のひとつとなった。rdでリディアらが幻字でルティア語を記す方法を考案したが、理字のほうがルティア語の表記には適していたため、普及しなかった。ところがひとつ、電算の世界では普及した。というのも1バイトの文字コードは幻字でいっぱいいっぱいだからここに理字が入るはずもなく、幻字しか入らなかったためである。
ITはアルバザードから興って世界中に広まっていったため、中国でも英字のキーボードを使うのと同じように、ルティアでもメティオでも幻字のキーボードを使う。結果、幻字は電算で最初に普及した。

alの革命後も理字は生き続けている。しかしvlと違って民間人でもほぼ確実に幻字への置換ができる。特に革命後に生まれた若い世代では幻字がデフォルトというほうが多い。だがここまで来るのに300年以上の時間がかかっているのが流石ルティアというところか。
現ルティア語は幻字で示すとアルカと音価がかなり異なる。lumiineはアルカではルミーネと読むが、ルティア語ではリュミーヌと読む。evanjelinはエヴァンジェリンではなく、ゥヴォンジュリャンのように読む。長い時間を経て地球の言語と同じように音と文字が乖離している。
文字と音は常にイタチごっこで、正書法を定めても定めてもすぐに乖離してしまうものである。人工言語を作る立場からしてみれば言語の変化は面倒くさく鼻もちならない問題児だが、嫌々でもリアリティのために変化させざるをえない。神話の時代ならまだしも、魔法が失われた時代なら地球に存在する言語程度には変化しなければ手抜きである。アラビア語のような変化の少ない言語にすれば楽だが、あれはイスラム教という強い宗教があってのもので、そう簡単に日本語などで行えることではない。まして英語のような国際語という地位があればまして現実的でない。

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