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人工言語学研究会
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人工言語
●定義
人工言語(constructed language, conlang)は「特定の個人ないし集団によって意図的に形成された言語」である。
人工言語は自然言語の反意語で、自然言語に比べて比較的短期間で個人ないし集団によって意図的に作られた言語のことである。
つまり日本語のように民族単位で何千年もかけて人々が自然と作り上げてきたものが自然言語であり、その反対が人工言語になる。
従って、よく無学者が「言語はすべて人間が作ったものだから、あらゆる言語は人工言語である」と言うことがあるが、それは誤りである。
→「そもそも日本語だって英語だって人が作ったものじゃないの?」
●類型
・目的別
国際補助語(auxiliary language, auxlang):かつてのラテン語や英語のような国際語(共通語)とまではいかないものの、それに準じるような存在を目指した人工言語のこと。エスペラントなど。言語が国際補助語として広まるには人口・経済力・軍事力が必須なため、いかなる人工言語も国際補助語になることはできない。国際補助語とは言っているものの、その名が満たされることはないという自己矛盾を抱えた言語である。芸術言語として使うこともできる。20世紀までは多かったが、英語の台頭とともに下火になった。
芸術言語(artistic language, artlang):小説や漫画や音楽など、何らかのコンテンツの中で使用することを目的とした人工言語のこと。アルカなど。架空言語、創作言語とも。人工言語は本来的に架空であり創作されたものであるが、この術語は通常芸術言語にしか用いない。本来は主に娯楽や芸術に用いられるが、多民族の間で作られ使われ洗練されてきたものは国際補助語としても機能し、現実世界の日常生活でも使うこともできる。サブカルや文化が発達し、パソコンやインターネットが普及した21世紀以降、急激に増加した。
工学言語(engineered language, engelang):哲学や論理性を追求したり、何らかの実験に用いられたり、機械を動かしたりするために作られた人工言語のこと。哲学的言語、論理的言語、実験的言語、コンピュータ言語などの下位区分がある。ほとんどが学問ないし思想上の実験的な試みか、あるいはコンピュータ言語のように実用を目指して作られたものである。
――哲学的言語(philosophical language):理想言語(ideal language)とほぼ同義で、近世ヨーロッパにおいてキリスト教的価値観の下で流行った。バベルの塔の崩壊以前に存在したアダムの言語や神の言語の再建を目指した。フランシス・ロドウィック『共通の文字』(1647)やジョン・ウィルキンス『真性の文字と哲学的言語にむけての試論』(1668)が金字塔である。
――論理的言語(logical language, loglang):自然言語にあるような曖昧性や非論理性を排他した論理的な人工言語のこと。文法や文の解釈の曖昧性を排他することを目的に作られた。ログランやロジバンが有名。人間が自然言語のように使うには不向き。人間の言葉と機械の言葉の中間的な存在で、コンピュータ言語と親和性がある。
――実験的言語(experimental language):何らかの実験を行うために作られた人工言語のこと。例えばトキポナはサピア=ウォーフの仮説に基づいて作られたものである。
――コンピュータ言語、プログラム言語、プログラミング言語(programming language):事実上プログラム言語のことを指すことが多い。BASICやCやPerlなど。そのほとんどが英語のアポステリオリ言語で、ほとんどが定義文と命令文で構成される。人間が 日常生活に用いるようには作られていない。機械に作業をさせるための言語で、人工言語で中では最も普及している。皮肉なもので、国際補助語は国際補助語になれないのに、コンピュータ言語はコンピュータ世界での国際補助語になれている。人によってはコンピュータ言語を人工言語から弾くこともある。しかし歴史的には近世の人工言語ブームで活躍していたライプニッツらに端を発する言語なので、人工言語の一種である。
・アプリオリとアポステリオリ
人工言語の世界では、既存の言語から語彙や文法などを流用したものをアポステリオリといい、そうでないオリジナルでゼロから作ったものをアプリオリという。
例えばエスペラントは西洋語から語彙などを流用しているのでアポステリオリであり、アルカは地球上のどの言葉からも流用していないのでアプリオリである。
アプリオリとアポステリオリの最大の違いは制作にかかる労力である。アプリオリのほうが一般的に労力がかかる。
最も簡単な人工言語は『ファイナルファンタジーX』のアルベド語のような換字式のものだが、こういったアポステリオリは作ろうと思えば一日もかからない。
一方、言語も世界も全てゼロからオリジナルで作られたアルカは1991年から何十年と続いていて、いまだに制作途上である。
アプリオリとアポステリオリの間には、言語によって、一日と数十年という甚大な労力の開きがある。
なお、流用と参照は異なるので区別すること。
実際に人工言語を作るのはどこかの民族に属しどこかの風土に属しいずれかの言語を母語とする現実の人間なので、自分が育ってきた環境に影響を受けて言語を作ることになる。これはアプリオリでもアポステリオリでも変わらない。
何か人工言語を作ろうと思えば、必ず母語や自国の文化の影響を受けるし、それを完全に排他することはできない。
それに人工言語は科学から娯楽まで森羅万象に渡って語彙を制作する必要があるため、制作者は必然的にあらゆる分野の知識を身に着けていなければならない。
となると相当勉強することになるが、その勉強に使う資料は既存の言語で書かれているわけだから、言語制作時には必ず何かしらの資料を参照することになる。
こういった参照行為はアプリオリだろうとアポステリオリだろうと関係なく行うもので、流用とは異なる。ここが分かっていないとアプリオリとアポステリオリの鑑別ができなくなるので注意したい。
なお、アプリオリ・アポステリオリという概念は人工言語だけでなく人工世界にも存在する。
例えばアルカはアプリオリな人工世界カルディアを持った人工言語である。
・優れた言語
言語学は言語に優劣はないとしている。
しかしそれは自然言語だからであって、人工言語の場合は「作り込みの度合い」がクオリティ(質)として評価され、優劣が決定されることがある。
→「一番優れた人工言語って何?」
Further Reading: 「人工言語の術語」
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