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人工言語学研究会
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人工世界
人工世界(constructed world, conworld)は「特定の個人ないし集団によって意図的に形成された世界」のことである。内訳には人工文化と人工風土がある。人工歴史を内訳に加えることもある。
人工言語と対をなす概念として使われることもあれば、人工言語が人工世界の中の一設定として内包される場合もある。
人工言語は音声や文字や辞書の形で現物をこの世に創造することができるが、人工世界の場合は制作者はふつう土地を新たに創造することができないので、あくまで形のない想像だけの産物となる。ただ、設定を文書にしたり世界を絵に描いたりCGにしたりといった電子的な手法で、架空の世界を現実世界に間接的に存在させることは可能である。
人工世界は大きく分けて、1) 地球のどこかに架空の国家などを作るパターンと、2) 地球外のどこかの惑星に国家などを作るパターンと、3) そもそもこの世界とは別の世界を作るパターンとがある。
セガの『戦場のヴァルキュリア』というゲームでは、架空のヨーロッパ大陸で起こったガリア戦役が物語の舞台となっている。これは1)の例である。
渡辺しまの『エスとエフ』という漫画には、アルティナ星系の惑星パラディスから来たヒロインが登場するが、これは2)の例である。
セレン=アルバザードの『紫苑の書』という小説・漫画では、日本人の主人公が異世界カルディアの惑星アトラスへ召喚されるが、これは3)の例である。
1)は架空の国家を埋め込む土地の周りにある国家の歴史や風土や文化をよく知っている必要があり、その点に労力を使う。
2)と3)はゼロから世界を創造するので、どういう風土ならどういう文化ができあがるのかなどといった点を考慮しなければならず、労力がかかる。いい加減な設定で科学的な矛盾を許すのならどうとでも作れるが、リアリティのないクオリティの低い世界になってしまう。
ただ、小説やゲームなどといったコンテンツを作る人間は通常そこまでクオリティを重視して詳細に作り込むことはしない。なぜなら、まるで実在するかのような精巧な世界のニーズがユーザー側にないため、そこまで労力をかけて作っても商業ベースで考えると徒労に終わるからである。
また、科学的に矛盾を生じさせないよう気をつけながら精巧に作り込みすぎると、現実世界に似すぎてしまうという問題がある。人工世界はファンタジーに使われることが多い。現実世界にはない要素を出したいからわざわざ世界を創造するのである。それなのに現実世界に似てしまうのなら、そもそも異世界を作る意味がない。そういうわけであえて人工世界を詳細に作り込まないというケースもある。
その一方で、リアリティのない荒唐無稽なファンタジーには没入できないという人もいて、まるで現実の世界であるかのようなリアリティを持った人工世界を望む者もいる。架空を現実であるかのように楽しみたいという原動力がそこにはあり、そのためにはより没入感を味わえるよう、まるで本当に存在してもおかしくないようなリアリティを持った世界を望むケースがある。
これらは作り手やユーザーの好みによるので、一概にどちらがいいとはいえない。
2013年現在、文化も風土も歴史も諸科学も全て精巧にゼロからアプリオリで作られた人工世界は人工言語学研究会のリディア=ルティアらが制作したカルディアだけである。この世界は1991年ごろから徐々に作られだしたもので、数十年の歴史を持つが、まだまだ未完成である。世界をゼロから作るには森羅万象に詳しくないといけない。それに膨大な設定を付与しなければならない。恐ろしく労力がかかる。その上ごく一部のユーザーを除いてそういうリアリティのある世界に魅力を感じないため、商業ベースにも乗らない。完全に学問的かつ芸術的な意図で作られるたぐいのものである。
異世界について語るとよくトールキンの『指輪物語』が引き合いに出されるが、あの世界観はアポステリオリの要素を含む上、パソコンのない時代につき、文化も風土も歴史も諸科学も全て精巧にゼロからアプリオリで作ることができていない。文化も風土も歴史も諸科学も全て精巧にゼロからアプリオリで作られた人工世界はカルディアが世界初である。
なお、上で「アプリオリ」と述べているとおり、人工世界にも人工言語同様アプリオリとアポステリオリがある。
人工世界は人工言語に比べてアプリオリの割合が大きいようである。
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