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人工言語学

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序文

論文

高度な作り方

参考文献

人工言語学研究会

序文

 本書は『言語を作るための言語学』という名が示すとおり、人工言語制作に必要な言語学の知識や経験について書かれたものである。
 人工言語制作には言語学の知識や経験が有用である。特にアプリオリな言語をゼロから作り上げ、更にそれを自然言語の代替として使用できるレベルにまで作り込む場合、言語学の知識や経験は必須になる。しかし言語学は人工言語を範疇としない。つまり研究対象としない。よって言語学関連の書籍は人工言語を制作するという観点で書かれない。しかるに人工言語制作者は言語学関連の書籍を読み、制作に必要な知識をピックアップしていく必要がある。言語学の知識は必ずしも人工言語制作に直結するものばかりではない。あまた存在する言語学の知識の中から人工言語制作に使える情報を取捨選択する必要がある。更に取捨選択した知識を人工言語制作の観点で新たに分析しなおす必要がある。これはとりわけ経験の浅い人工言語制作者にとっては難易度が高く、またかなりの年月を消費するものであり、負担が大きい。
 そこで世界初となる「言語を制作する観点から見た言語学」という内容の書籍を出版し、未開の分野を新たに開拓することとなった。人工言語制作者のために言語学概説を施す試みは既にRosenfelder(2010)の主に前半部で行なわれているが、これは人工言語制作者が知っておくべき言語学の基本的な知識を列挙したものであり、言語学概説を物語調で読めるようにしたarbazard(2012)に近い性質を持ったものである。本書はRosenfelder(2010)ともarbazard(2012)とも異なり、人工言語制作者にとって必要な言語学概説を言語学の視点で施すものではなく、人工言語制作者にとって必要な言語学の知識を人工言語制作の視点で施すものである。
 今までは人工言語制作者が言語学の土俵で研鑽し、言語学の知識から人工言語制作に必要な知識を取捨選択して人工言語制作用に知識をアレンジしなければならなかった。それが大変不便であるため、逆転の発想で、人工言語制作という観点から見た言語学を行おうと考えたのが本書の特徴である。人工言語制作にとって不要な議論は捨象し、必要な知識を効率良く吸収できる。その点が本書の利点のひとつである。
 言語学関連の書籍はどれも自然言語を分析する観点で書かれている。つまり既存のものを分析する、言い換えれば「言語を見る」観点で書かれている。一方本書は「言語を作る」観点で書かれた言語学の本である。音楽を聴くのと作るの、絵を見るのと描くの、料理を食べるのと作るのがそれぞれ異なる知識を提供してくれるのと同様に、言語を見るのと作るのもそれぞれ異なる知識を提供してくれる。現在の言語学には「言語を作る」という視座が欠けている。なぜ他のあらゆる分野には「作る」という視点があるのに、言語学にはその視点がないのだろうか。言語学には「作る」観点があってはいけないのであろうか。否。音楽や絵や料理同様、「作る」という観点は、「見る」という観点しかなかった現代言語学に新たな世界を与えうる。その意味で、本書は人工言語だけでなく言語学においても類書にない特徴を持った、今までにないタイプのものといえよう。

 本書の読者対象はarbazard(2011)やarbazard(2012)などを経て、人工言語の基本や言語学の概説程度を心得ている者である。人工言語について基本的な知識があり、言語学についても概説程度は理解している人間を対象としている。従って、人工言語や言語学の術語についてはいちいち解説を挟まずに用いることがある。未知の術語に出くわした場合は左記の書籍等を参考にするなどしてほしい。なお、説明が必要と判断された術語については本書で解説してある。
 筆者のseren arbazardは人工言語学研究会の代表であり、「人工言語で言語学する」人工言語学という分野を創設した人物である。また、人工言語アルカの主な作者の一人でもある。本書は人工言語制作の観点で言語学を分析するものであるからして、人工言語で言語学しているということができ、結果的に人工言語学の研究範疇であるといえよう。
 なお、本書は2005年ごろに着想され、2012年12月31日に人工言語学研究会於人工言語学にてweb版が書籍版に先行して公開されたものである。

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