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人工言語学

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論文

高度な作り方

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造語におけるアプリオリとアポステリオリの労力比

造語におけるアプリオリとアポステリオリの労力比について確実に言えるのは、アプリオリのほうが労力がかかるということである。どうやってもアポステリオリより楽に作ることはできない。
参照となる言語がないので参照言語から機械的に造語するということができず、言語の背景にある文化や風土や歴史を考慮しながら造語しないといけないからである。

以下は実際筆者が地球の星座と異世界の星座を作ったときのこと。
異世界には星座が100天あり、地球には88天ある。
異世界の星座を造語するのには実に数日から数週間もの期間がかかった。造語するにあたって背景文化や風土や歴史を考慮し、また星座の区切り方も異世界独自のものにしたため、時間がかかった。異世界独自の星座の区切り方を図説するだけでも相当な時間を費やした。
一方地球の星座をアルカで造語したときは非常に楽だった。地球の星座は異世界の言語であるアルカには本来存在しない。アルカを現実世界で使うにあたって便宜上作っただけの単語である。なのでバックボーンを考えずに日本語の和訳をそのまま直訳していけばいい。
そして実際この作業はたった1時間で終わった。

このとき痛切に感じたのだが、アポステリオリ人工言語の造語にかかる労力は、精巧に作られたアプリオリ人工言語の100分の1にも満たない。
アプリオリの場合、その概念がその世界に存在するかの検証から始まり、存在するのだとしたらどの時代にどういう経緯でどう命名されたかを通時的かつ共時的に考察しながら造語しなければならない。だからものすごく労力がかかるし、その言語と世界を知り尽くした匠でないと矛盾なく造語できない。

特に今回は同じアポステリオリでも一応日本語をアルカに訳しているので、アポステリオリの中ではこれでも敷居が高く、労力がかかったほうである。
これがエスペラントだったら、西洋語の星座名を流用できる。極端に簡単なものなら、機械的に-oを付けるだけでよい。
例えばオリオン座は英語でOrionだが、エスペラントではOrionoである。なんの捻りもない。翻訳作業すらしていない。プログラムで自動生成できる。人間の手すら必要ない。
同じアポステリオリでも、日本語からアルカに翻訳した場合は違う。アルカでオリオン座はnantoifaという。ifaは「星座」で、nantoは人名である。nantoは海の龍と人の間に生まれた息子である。オリオンがギリシャ神話で海の神ポセイドンの息子であることから、アルカではオリオンがnantoに当たるとして名付けられた。
というわけで、同じアポステリオリでも日本語からアルカにするにはやはりそれなりの捻りが必要で、かかる労力が違う。

地球の星座を造語したとき、異世界の星座を造語した労力の100分の1程度に感じたが、その100分の1ですら英語をエスペラントにする労力と比べると10倍程度の体感的な労力の開きがある。
つまり、体感的にはエスペラントを作るのはアルカを作るのの1000分の1程度の労力しかかかっていないことになる。
実際ザメンホフがセレンに比べて殆ど人工言語の作業をしてこなかったことからもそのことは容易に伺える。
エスペラントの1万語はアルカの10語に当たると言っても過言ではない。まぁ実際単語の選出法によっては10語は言いすぎかもしれないが、dolmiyuなどいくつかの単語についていえば、そのくらいの労力の開きがある。
正直言って、辞書の語数を比べられるとき、エスペラントの1語をアルカの1語と等価としてカウントされたくない。「こっちは一語辺りにどんだけ労力かかってると思ってんだ」というのが本音である。

ではあなたはどちらの方法で造語すべきだろうか。
それはあなたがどのような人工言語を作りたいかによる。
エスペラント程度のクオリティで満足できるなら、労力はかけないに越したことはない。
だが自然言語と見紛うような、異世界が現実に存在するかのような錯覚を覚えさせる人工言語を作りたいなら、文化や風土や歴史などを考慮しながら一語一語考察して作っていくほかはない。
要はあなたが何を欲するかなのだ。アルカのような言語が最もクオリティが高いのは事実だが、そこまでの水準が求められるかどうか考えてから作業に入るべきである。

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