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人工言語学

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序文

論文

高度な作り方

参考文献

人工言語学研究会

対格言語と能格言語と活格言語と自動詞基底言語

 世界の言語には対格言語と能格言語と活格言語という類型が存在する。日本語や英語をはじめ多くの言語は対格言語であり、能格言語はバスク語など少数で、活格言語も北東カフカス語族のツォヴァ・トゥシ語など少数である。従って人工言語を作る際は特別な事情がない限り対格言語で制作するのが無難である。
 対格言語とは、自動詞の主語と他動詞の主語が同じ格(主格)で表される言語のことである。能格言語とは、自動詞の主語と他動詞の目的語が同じ格(絶対格)で表される言語のことである。活格言語とは、自動詞のただ一つの項が他動詞の動作主項と同じように標示されたり、他動詞の被動者項と同じように標示されたりする言語である。つまり対格言語と能格言語の性質を併せ持った言語であり、この意味で活格言語は対格言語と能格言語の中間的な存在であるといえる。

 活格言語には2つの類型がある。自動詞の項が動作主のように扱われるか被動者のように扱われるかが動詞ごとに決まっている言語と、そうでない言語である。前者を分裂-Sといい、後者を流動-Sという。一般に活格言語は分裂-Sを持つタイプが多い。なお、分裂-Sとして使われる動詞と流動-Sとして使われる動詞が混在している活格言語も存在する。
 流動-Sの場合、どんな自動詞でも主語を動作主にするか被動者にするかを話者が決めることができる。主語を動作主にした場合、話者の意志や制御の度合を示すことができる。主語を被動者にした場合、話者の意志や制御のなさを示すことができる。流動-Sは分裂-Sと異なり、自動詞ごとに動作主を取るか被動者を取るか覚えなくて良く、学習効率が良い。さらに文意に応じて動作主を取るか被動者を取るか選べるので、表現力も高くなる。例えば「滑る」という自動詞があるとする。その主語を動作主とした場合、スケート場で自分の意思で滑るというような意味になる。一方その主語を被動者とした場合、凍った道路でつるっと滑ってしまったというような意味を表せる。文意に応じてどちらの表現に当たるか選べばよく、表現力が高い。その上、自動詞ごとに動作主を取るか被動者を取るかという類型を覚える必要がなく、学習効率が良い。なお、自然言語で例を挙げると、パラグアイで使用されるグアラニー語がほぼ純粋な流動-Sの活格言語である。

 前に、すべての動詞を自動詞か他動詞にすれば学習効率が良くなると述べた。自動詞には非能格動詞や非対格動詞など様々な種類があるため、すべての動詞を自動詞にした場合、自動詞ごとにそういった種類を覚えねばならず、非効率的であると述べた。
 だが流動-Sの活格言語を使えば、あらゆる動詞を自動詞にしても学習効率が落ちることなく設計できる。流動-Sの活格言語において、やろうと思えばあらゆる自動詞は非能格動詞にも非対格動詞にもなれる。ゆえにどの自動詞が非能格動詞になるかなどといったことを一つひとつ覚える必要がなくなる。
 そして自動詞から規則的に他動詞を派生させれば、自動詞を基底とした言語を制作できる。この言語では他動詞は自動詞から規則的に作られるため、動詞ごとに動詞の自他を覚える必要がない。例を挙げよう。自動詞の主語が他動詞の動作主に相当する場合、これをAと呼ぶことにする。自動詞の主語が他動詞の被動者に相当する場合、これをPと呼ぶことにする。主語をSと呼ぶことにすると、非能格動詞に当たるものはSAで示すことができ、非対格動詞に当たるものはSPで表すことができる。動詞をVとすると、SA Vで非能格動詞を使った自動詞文に当たるものを、SP Vで非対格動詞を使った自動詞文に当たるものを作ることができる。先に挙げたスケート場で滑る場合はSA Vという構造で表現でき、道路でつるっと滑る場合はSP Vという構造で表現できる。
 ここから規則的に他動詞を作る場合、SA SP Vという構造で表すことができる。ただSは主語の意味なので片方を目的語とする必要がある。そこで目的語をOとすると、左の構造はSA OP Vのように書きなおすことができる。なお、この構造は語順を考慮していない。OP SA V, OP V SAなど、どのような語順で並べることもできる。それは言語制作者の選択である。ちなみにこの場合は他動詞なので動作主項と被動者項の両方が同時に現れるわけだが、自然言語の活格言語では一般に動作主項が有標で被動者項が無標となることが多い。

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