リュウの月
1993年5月12日
アルシェの末裔を探す旅に出たセレンたち。まずは身近なところから探そうということになり、ザミアの街に行こうということになった。
ところがザミアに行く手前にはソエンの谷があった。風が強く吹いていて、飛んで越えようとしても強風で巻き込まれてしまう。
風が届かない高さまで飛んで越えようとすると、そういう旅人を狙って餌にするヴィクトという魔物にやられてしまう。
ソエンの谷を迂回しようにも、そこには魔物がうじゃうじゃ住んでいる。結局谷を渡るしかない。
一旦谷を降り、谷底を歩いて渡り、ゆっくり反対岸を浮上して谷を越えようということになった。
ところが谷底についた途端、上空を飛んでいた巨大なヴィクトが風の穴を通って落下してきた。
オヴィはとっさにイーレを撃ったが、ヴィクトは雷鳥だ。効くはずがない。
谷底も風が強く、風のせいでセレンの剣は役に立たないし、リディアのエーズはヴィクトにかき消されてしまう。
このままでは食われてしまう。
そんなとき、三つ編みの金髪の少女が右手に爪を装備して反対岸から落ちてきた。
何事かと思うまもなく、少女はヴィクトの眼に爪を突き立て、一撃で殺した。
少女の額にはダルハが浮かんでいた。
「大丈夫、アンタたち?」
武道着を着た少女はセレンらに手を差し伸べる。
聞けば名をクリスという。ザミアの街で祖父と暮らしているそうだ。
血の繋がっていない祖父で、幼い頃捨てられた自分を育ててくれたのだそうだ。
武道をしており、ソエンにはよく修行しにくるとのこと。
セレンらはクリスにダルハのことを説明し、アルシェの使徒として仲間になってくれないか頼んだ。
クリスは修行になるという理由で快諾し、セレンらを祖父がいる家に招いた。
1993年5月13日
クリスの家に泊めてもらったセレンらはリーザに報告するため、クリスを連れてアシェルフィに帰った。
リーザはクリスに学がないことを残念に思い、アシェルフィの家に住まわせ、そこから学校に通わせるよう手配した。
クリスの育ての親にはリーザから使いを出して事情を説明した。こうしてクリスはセレンらのクラスメートとなった。
2013年5月14日
イシュタルが無表情でアニメを見ていた。
セレンはレイゼンを覗きこむ。
「面白いの、これ?」
「セレン兄様……。そうですね、今季の注目作みたいです。現代魔法学が出てきます」
「ふぅ……ん」
セレンは眉をひそめた。イシュタルは悟ったような顔でレイゼンを消した。
「兄様、お暇があるなら私とお話でもしましょう」
それはセレンを気遣ってのことだった。
アニメなどサブカルにはたまに現代魔法学が登場することがある。
セレンが現代魔法学のノウハウをネットで公開してからというもの、その数は年々増えている。恐らくセレンの影響がそれなりにあるのだろう。
ただ問題は、サブカルの中で使われる現代魔法学理論が娯楽仕様のなんちゃってご都合主義設定でしかないということだ。
しっかり理論立てて研究して作ってあるセレンの理論は世間から見向きもされない。見向きされるのは娯楽性のあるなんちゃって魔法学だけ。ちゃんとしたセレンの理論は採用されない。
それでセレンは世の中を怨んでいる。そのことは孤児院のみんなが知っていた。
原文
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