「あなたには使命があるんだから、こんな下らないところで下らないことしてる暇はないのよ」
別室へ連行され、リーザの差し入れたスーツを着る。
釈放だと言われた。それは気が遠くなるほど先の未来で聞くはずの言葉だった。
外に出る。
夜空だ。
あれから一度も見ることのなかった夜空だ。思わず涙が出る。
リーザが歩いてきた。
「やつれたわね、セレン君。もう大丈夫よ」
車まで案内される。
「運転はお願いね」
「あ、でも僕、事件のとき事故起こしてて免許が……」
「そんなのどうでもいいわよ」
「……」
タイヤの静音が響く。
「あの……殴ったこと」
おずおずと切り出す。
「理由があったんでしょ。聞かないけど」
「どうして僕を捨てなかったんですか」
リーザは一呼吸おき、「母親だから。あそこで捨てるような人間は親じゃない」と答えた。
セレンは重い口調で「そうですね」と呟いた。
そう、あんなのは親じゃない。
風花院に着く。メルにどんな顔をして会えばいいのか。
ドアを開けたらメルが立っていて、セレンに気付くや抱きついてきた。
「お兄ちゃん、大丈夫だった!?」
「メル……」
「ごめんね、ずっと会いに行きたかったし手紙も出したかったし今日だって先生と一緒に行きたかった!」
メルは大分やつれていた。わんわん泣き出す。見ればミーファや孤児たちもいる。皆暖かくお帰りと言ってくれた。
メルはひとしきり泣いた後、セレンの頬を思い切り平手で打った。バーンと良い音がする。当然の報いだわなと思う。
「メルじゃダメだったの!?メルを捨ててでもあの女に復習したかったの!?」
どうやら彼女は計画も真意にも気付いていないようだ。セレンは「ごめん」と言った。
メルはしばらくセレンを睨んだ後、「もう死のうとしないで」と言って胸に顔を埋めた。