| パールの月 
1992年8月31日
 暑い夏が終わろうとしていた。徐々に秋めいてくる空気をセレンは肌に感じていた。
 
 
2012年9月1日
 「おっ、立った! ミーナ! アリスが立ったよ!」
 居間で声を上げるラマン。台所からミーナが慌てて飛んでくる。
 娘のアリスはテーブルの脚につかまって危なげに立ち上がっていた。
 「わぁ、本当だ。凄いじゃない、アリス!」
 
 「ほらアリス、パパのところへおいで」
 ラマンが両手を広げると、アリスはよろよろと歩き出し、倒れこむようにラマンの胸に抱きついた。
 「偉いじゃないか、僕のお姫様」
 
 「もう1年2ヶ月だもんね」
 遠い目でミーナが言う。
 「周りの子も立つ頃だろ? そろそろかなと期待してたけど、やっと立ってくれたな」
 ラマンはシャツの胸のところによだれをかけられるのも構わず、娘を抱きしめた。
 
 
2012年9月5日
 今日は思いもかけないことで有名人と出会うことができた。僥倖といえよう。セレンは喜んだ。
 
 原文
 
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