クリスの月
1992年2月4日
リーザの寺子屋。
夜、セレンとリーザが暖炉の前に座っていた。
「ねぇセレン君、さびしい?」
「どうしてですか」
「たった一人で知らない国に来て」
「……少し」小さく俯く。「でも、先生やリディアたちがいるから大丈夫です」
「ねぇ、私はあなたのお母さんになれるわ」
「お母さん……」
「お姉さんにもなれる」
「お姉さん……」
「そして先生にもね」軽くウインク。
「……いいですね、それ」
「でも……」小さく釘を刺すように呟いた。「恋人にはなってあげられないの」
セレンは残念そうに下を向いた。リーザは小さく言葉を付け足した。
「……それは私の役目じゃないから」
2012年2月22日
「曲を作ったんだ」
セレンはアンセで曲を再生する。さびしい歌だった。メルは何度か小さく頷いた。
「10年くらい前も曲を作ったよね?」
「あのころから現代魔法学の研究が盛んになったから、曲は諦めてしまった。三十路の手習いだよ」
「いいんじゃないの。うまくはないけど、私は好きだよ。お兄ちゃんの心が聴こえるようで」
「そうか」セレンは満足気に頷いた。「ならいいんだ。報われる」
原文
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