リアルファンタジー小説『アルディア』

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1992年4月8日

 リーザの寺子屋の前にある広場。生徒を前に、リーザは述べた。
「雪も融け、風も暖かくなりました。久々に体を動かしましょう」
 彼女は目の前の大木に手をかざすと、ユノを集めた。青い光が手の平の前に凝縮されると、それは弾になって木に飛んでいった。弾は木にぶつかると音を上げて消失した。木には痕が残った。

 セレンはその様子を面白そうに見ていた。
「先生、どうやったんですか」
「ん?」リーザは首を傾げた。小鳥から飛び方を尋ねられた親鳥のような顔だった。「どうって……ただユノを撃っただけだけど」
「ユノ……?」

 首を傾げるセレンにリディアは訝って尋ねた。
「ねぇセレン君、いくら記憶がないからって、ヴィードも忘れちゃったんじゃないよね?」
「ヴィードってなんだ?」
 リディアは呆れたようにため息をついた。周りから失笑が洩れる。

「ヴィードはユノ・ヴィル・ノア・アルマに分かれるエネルギーのこと。ちなみにユノ・ヴィル・ノアを集めたものがアルマね。
 ユノは青い光で、今先生がやったみたいに弾みたいにして撃ち出すこともできるし……」
 すっくと立って手の平から青い光線を空に放つ。
「――こんな風に光線として撃つこともできる。さらに……」
 ててっと木に寄ると、木に手を触れる。一瞬手の平が青く光ったかと思うと、ドンっと音がする。
「こうやって直接対象にユノを流し込んで攻撃することもできる」

「へぇ!」
 面白そうなセレン。リーザは人差し指を立てると、指の周りにドーナツ状のユノを出した。
「慣れればこんなリング状のチャクラム弾も作れるわよ」
「凄いですね」

「ユノは加工しやすいヴィードよ。体表に張り巡らせることでバリアにもなる。
 一方ヴィルは魔法のエネルギー。原形は赤い光なんだけど、ユノと違ってそのままの形で対外に出すことは難しい。何らかの自然現象として物理的に出現させるの。
 要するに魔法の力ね。ヴィルで火を起こせばそれは火の魔法になる。リディアさん、やってみて」
「はい」言われるや否や、リディアは胸の前に両手を置き、ボールを撫でるように空気を摩った。するとそこに小さな炎が生じた。
「わ、すごい!」素直に驚くセレン。「リディアは今何か呟いていませんか?」
「呪文よ。魔法を強化する力があるの。言葉は魔法、魔法は言葉だからね」

「あとノアっていうのは?」
「身体能力を強化するエネルギーよ。原形は緑の光なんだけど、ユノやヴィルと違って体外に出すのは難しいの。
 体内と体表に張り巡らせることで身体能力を強化するの。こんな風にね」
 リーザの体表に緑がかった霞が見えたかと思うと、彼女は軽く4mも飛び上がった。

「凄い……僕も使えるんですか」
「もちろんよ。今まで冬で室内で過ごしていたから、そういえばヴィードを見せたことがなかったかもしれないわね」
 するとオヴィが口を挟む。「俺、ユノ使ってたぜ」
 リディアも「私も魔法使ってたよ」と言う。
 リーザは苦笑し、「単にセレン君が見過ごしてただけみたいね」と言った。

「そうですか……。ところでアルマっていうのは」
「至高のヴィードよ。ユノ・ヴィル・ノアを均等に混ぜ合わせることでできる最強のエネルギー。これを合成するのはすごく難しいの」
「そうなんですか」
「まぁ魔法学についてはお国のほうも躍起になって研究しているし、その初歩は初等教育にも含まれているから、今後座学も含めてやっていくことになるわ。
 そのうちヴィードで頭がいっぱいになるわよ」リーザは全員を見渡した。「みんなもね!」


2012年4月18日

 孤児院フランジェ。セレンは私室でメルと話をしていた。
「新しく小説を書こうと思うんだ」
 その概要にメルに伝えると、彼女は納得したように頷いた。
「うん、それはお兄ちゃんに向いてる作品だね」


 原文

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